「正美ちゃんはどうだった? 友達できた? 女の子といい感じになったりした?」

「なにもない」

「せっかくの飲み会だったのに。夏が終わっちゃうよ?」

「夏が終わることと飲み会になんの関係があるんだよ」

 正美ちゃんは面倒くさそうにため息をついた。

「そのまんまの意味だよ。せっかくの夏だよ? 友達とか恋人とか、そういう人がいたらきっともっと楽しいよ?」

「いいんだよ、そういうのは。大学には勉強しにいってるんだし、そんなことよりバイトしたり本を読んでるほうがずっといい」

「正美ちゃんはバイトしすぎだよ。今日だって、明日の朝までずうっとバイトでしょ? ほら、夏が終わっちゃうよ?」

「なにしてたって夏は終わるだろ」

「そうじゃなくて」

「いいんだよ、ほんとうに」

 正美ちゃんはバニラシェイクを静かに一口だけ含み、ネオンで彩られた街を窓ガラス越しに睨んだ。必要なものとそうでないものの線引きがはっきりしているところは、昔から変わらない。