保護された施設で育った私は、いまは厨房という名の戦場で日々奮闘している。どこからどう聞きつけたのか、インタビューの申し込みはこれまで何度もあった。そのたびに断ってきたけれど、一度だけ引き受けた。

 ――無戸籍者だった方たちにインタビューを伺っていて。ぜひ、引き受けていただけないでしょうか。

 電話でそう言われたとき、目の前には水色の空が広がっていた。それはあの脱走した日、みーちゃんのベランダから見た空と同じ色で、私はちょうど当時のみーちゃんと同じ年齢を迎えていた。
 いいですよ。まるで近所のコンビニに誘われたかのように、軽い口調で答えた。そんな自分に少しびっくりした。
 後日、インタビューを申し込んだ田之口(たのぐち)さんから「断られると思っていたから、すごく驚いたんですよ。どうしたら説得できるかいろいろな台詞を紙に書いて準備してたのに、どれも使わずにすみました」と冗談めかして言われた。
 苦笑していると、「どうしてインタビューを引き受けたんですか」と訊かれた。私は答えられず、適当に笑った。
 自分のなかに溜まっていたものを吐き出して、少しでも自分のなかを軽くしたかったのかもしれないし、口にすることでこれまでのことを整理したかったのかもしれない。
 あるいは、どこかで――。