「うわー、全身ガッチガチ。がんばったねえ。やっぱり夏の厨房って大変なんだね」
「毎日毎日、汗だくだくだよ」
「明日のご飯は任せて。おいしいパスタつくるよ。夏野菜たっぷりのやつ」
「ありがと。楽しみにしてる」
 みーちゃんの家を飛び出してから、何度目の夏だろう。どれだけ夏を過ごしても、あれほど濃密で密室な夏はない。
 ネグレクトの母親の失踪。みーちゃんとの穏やかな暮らしと嘘と軟禁。隣の子どもと猫たちを連れての脱走。そして、保護。
 当時の私は、みーちゃんを捕まえて欲しいわけじゃなかった。ただただ隣の子をどうにかしたかった。家に帰って、みーちゃんと約束した焼きそばだってつくる気でいた。
 だけど大人たちにあれこれ訊かれ、全身ぼろぼろだった幼い私が嘘をつきとおせるわけがなかった。
 裁かれて罪を償ったみーちゃんは、見知らぬ外の世界に脅えていた隣の子は、あれからどうしているだろう。