『いくら相手が若い女性でも、よく知らない人の家で暮らすことへの不安や不信感はなかったんですか?』
『私の場合は他に頼れる人もいなかったんです。無戸籍者であることが大罪のように感じていたので、後ろめたさもあって……』
 いったい私はこのインタビューで何度「私の場合は」と言っているのだろう。数えてみたけれど、あまりにも多かったので途中でやめた。
愛児(アイジ)、なに観てるの?」
 恋人は無遠慮に背中にのしかかり、パソコンを覗き込んだ。風呂上がりの髪から、石けんの香りと水滴がこぼれ落ちる。
「どうしていつも髪の毛乾かさないのよ」
「だって面倒くさいんだもん。文句言うなら、アイジが乾かしてよ」
 恋人は、五つ年上とは思えないくらい子どもっぽい。だけど耳元で甘ったれた声をだされてしまえば、なんだかんだで許してしまう。彼以上に甘えるのがうまい人間を、私は知らない。
 仕方なく洗面所からドライヤーを持ってきて髪を乾かしてやると、恋人は栗色の髪を揺らして大型犬のようにワフワフよろこんだ。