「おっ、お願いです……。た、助けて、助けてくださいっ。来ちゃう、隣の人が来ちゃうからっ」
「いったいどうしたのその顔は?! なにがあったの? 誰にやられたの? あなた名前は? 何号室の子?」
「……なまえ」
 名前は。私の名前は。
 立ちつくしていると女性は私の背後に回り、隣の子の顔を覗き込んだ。肩にしがみつくちいさな手に、ぎゅっと力がこもる。この子も私のように外の世界を知らないのかもしれない。
「この子、あなたの妹? まあまあ、傷が、血が……。だいじょうぶよ。おばさん、すぐに警察を呼ぶからね。ねっ、名前は? こわがらないでいいのよ。あなたとこの子の名前を教えてちょうだい?」
「わ、私の。私の名前は――」
 それからのことは、よく覚えていない。存在がないことになっている(、、、、、、、、、、、、、)私が、私をどう証明したらいいのか、私にはわからなかった。