「いたい? かお、いたい?」
 しゃべることを覚えたばかりの、たどたどしく甘い声。自分の傷口を犠牲にして問われた質問に
「……うん。痛い」
 と私は答えた。今度はその子の方が困った顔をした。大小さまざまの傷がついた顔のなかで(ひず)んだ瞳はびっくりするくらい澄んでいて、痛いなんて言わなきゃよかったと後悔した。
 赤紫の顔と傷だらけの顔。はじめてちゃんと向き合わせた顔は、お互いにひどかった。
「ま、まほうっ」
 子どもはなにか閃いたように、ちいさな歓喜をあげた。その両脇にいる猫たちも、賛同するようにちいさく鳴く。
「魔法?」
「まほう、しってるよ」
「どんな?」
 訊ねると、穴からにょきっと手がのびてきた。警戒が解けてきたのか、その動きに迷いはなかった。ちいさな手のひらを、頬にかざされる。
「えっ、と……。いたいの、いたいの、とんでけーっ」
 魔法の言葉に合わせて、ちいさな手は宙を切るように舞った。その瞬間、痛みは別の場所へと移動した。引き裂かれるように胸が痛い。