気配に気づいたのか、猫たちは鳴くのをぴたりとやめて近づいてきた。水を持ってきたと思われたのかもしれない。部屋に戻って水を用意しよう。だけど、みーちゃんにばれたらどうしよう。それにこの穴だって、私があけたんだって誤解されたらどうしよう。
 考えていると、クッキー二枚分の穴からそろそろと指がのびてきた。ちいさくて丸い、だけど痩せこけた、子どもの指。
 指は私の頬に、ちょん、と触れた。肩がびくりと上がる。みーちゃんに手のひらや握りこぶしを振りかざされた顔は、まだらな赤紫に染まっていた。手首の奥では、まだ縄の痕が疼いている。
 顔をしかめて痛みに耐えていると、穴から私を覗く大きな目が、ゆっくりとまばたきした。震える睫毛。その下の乾いたちいさな唇が、わずかにひらく。
「……たい?」
 はじめて聞いた、隣の子の声。だけどそれは隙間風のようにちいさくて、なにを言ったのかはわからなかった。
「えっと。いま、なんて言ったの?」
 困惑していると、乾いた唇はさっきよりも大きくひらいた。唇の端にある治りかけの黄色く濡れた傷口が、ぴりぴり赤く裂けていく。