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 それはたぶん、青い曜日の朝だった。みーちゃんは「今日はちゃんと会社に行ってくるね」とぎこちなく言った。
「だいじょうぶ、なの?」
「うん。だいじょうぶ」
 お互いになにがだいじょうぶなのかとは言わず、ただそう言い合った。カップのなかのコーヒーは半分以上残っていた。
 ひさしぶりに赤く塗られた唇の横についた白い粉は、お化粧を失敗したのか薬でも飲んだのか、どちらかわからない。「口のとこ、なんかついてるよ」とティッシュを渡してみたけれど、みーちゃんは「どこどこ?」と困った顔ばかりするので、代わりに拭いた。
「ありがとう、あーちゃん」
「ううん。そうだ、夕飯なにがいい?」
「……焼きそばが、いいな。この前は台無しにしちゃったけど、またつくってくれるかな」
「わかった。焼きそばね」
 みーちゃんはこくんと頷くと、急に顔を曇らせた。やっぱり行かないって言うのかな、と考えていると
「……いなくなったりしないよね」
 涙色の声で言った。私はそれを払うように「いなくならないよ。だからシュークリーム買ってきてね」とお願いした。みーちゃんはやっとにっこり笑ってお仕事に向かった。