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「ただいま、あーちゃん。ごめんね。ピザ屋さんが混んでて遅くなっちゃった。はい、今夜のピザ」
 みーちゃんから受け取った四角い箱はほこほこして、まだあたたかかった。隙間からこぼれる脂の匂いに誘われて、お腹がぐうと鳴る。
 毎週金曜日はみーちゃんがピザを買ってきて、それを食べながらいっしょに映画を観る。ここへ来たときから、ずっとそうしている。「あーちゃんが一週間お家のことをがんばってくれたご褒美」とみーちゃんは言うけど、がんばってるのはみーちゃんだ。みーちゃんが外でどんなお仕事をしているのかはよく知らないけど、ふとしたときに見せる遠い目とか、かちかちに張っている肩に触れればそれはわかる。
 それに、料理も掃除も、みーちゃんが私に「やれ」と言ったことはなにひとつない。私から言い出してはじめたことだった。
「あーちゃんはなにもしないでいいよ。約束さえ守ってくれれば、それでいいよ」と言うみーちゃんに、「みーちゃんは毎日がんばってお仕事に行ってるのに、それはおかしくない? みーちゃんだけががんばるのは、私は哀しい」と言ったとき、みーちゃんはワッと泣きだしそうな顔をしてから、すぐにそれを誤魔化すようにちいさく笑った。
 みーちゃんは大人なのに、ときどき子どもみたいな顔をする。それはなんだか胸が苦しくなって、だけど少し、うれしい。