鳴き声はやっぱりちいさい。でも、べっこう飴の色をした目は、くりくりしてすごく大きい。
 猫を飼ったことなんてないけど、三階のベランダに猫を放していいんだろうか。もしも手すりに乗って落っこちたりしたら、どうなってしまうんだろう。
 なぁん。
 猫たちが鳴く。
 なぁん、なぁん。
 うれしそうな鳴き声じゃない。暑いのかもしれない。この子たちはいつからベランダにいるんだろう? 端っこの日陰の方にいるけど、それだってずっといたら暑いに決まってる。
 それにこの子たちはちいさいだけじゃなくて、なんだか痩せて見えるような……。
 ピンポーン。チャイムが鳴り、はっとした。
 勢いよく振り返ると、背中に一筋、お湯のような汗が重たく流れた。Tシャツに、ショートパンツに、じわじわしみ込みながら、汗は背骨を這ってお尻へと向かっていく。
 ピンポーン。二回目のチャイム。じっと身を潜める。三回目のチャイムは鳴らず、その代わりにゴトゴトあわただしい音が聞こえた。
 やがて完全に静まり返り、大きく息を吐き出した。じっとり濡れたTシャツが肌に重い。ぱたぱたとTシャツを扇いで隣のベランダを覗くと、猫たちはもうそこにいなかった。