シャッターのおろされたお店に、くたびれた公園。立ち並ぶ団地は巨大なバリケードみたいで、「こっちへ来るな」と訴えているようだ。
 空は明るいのに、それでもどこか湿った雰囲気を感じさせる街。似てるな、みーちゃんに。
 ぼんやりと考え、手すりから身体を離した。背伸びして物干し竿にブランケットをかけ、洗濯ばさみでパチパチッと端をとめていく。これでよし。
 もう少しこうやって外の世界を眺めていたいけど、みーちゃんとの約束を破る時間は短くしたい。部屋に戻って本の続きを読もう、と考えていると、なにかが聞こえた。ちいさくてか細くて、頼りないなにか。
 もしかして、これは――。
「ねこっ?」
 思わず口にだしてしまい、あわてて両手で口をふさいだ。隣のベランダを見ると、大きな仕切りの板にはチョコレート三粒ぶんくらいの穴があった。人の気配はしない。こわいおじさんとおばさんは、部屋のなかだろう。
 どきどきしながら息を殺して、穴に近づいた。そうっと、そうっと、隣のベランダを覗く。
 みーちゃんが言ってたとおり、そこには猫たちがいた。長くて黒い毛をした、ちいさなちいさな猫。