フレンチトーストを食べ終えて、洗濯機のスタートボタンを押してから食器を洗った。口のなかはまだ甘い。舌で歯をぐるりとなぞると、うっすらメープルシロップの味がした。
 ごろんとソファーに寝転んで、薄手のブランケットにくるまる。テーブルに手を伸ばして、ぴかぴかひかる表紙の本をとった。
 みーちゃんが買ってきてくれる本は、いつも別の世界の物語ばかり。勇者やお姫様がいたり、魔法が使えたり、お城があったり。まるで自分がどこか遠いところに行って、なんでも出来るようになった気分になる。ただでさえ自分がいまどこにいるのか曖昧なのに、もっとずっと曖昧になる。
 ピーッピーッと高い音を鳴らし、洗濯機が終わりを知らせた。ソファーから体を起こすと、コップに膝がぶつかった。しまったと思ったときにはもう手遅れで、ブランケットにみるみるお茶が広がっていった。
 どうしようどうしよう。みーちゃんに怒られる。みーちゃんに嫌われる。
 ぐっしょり濡れたブランケットを抱きかかえて、大急ぎで洗面所めがけて走った。勢いよく捻った蛇口から一気に水が流れる。水飛沫はあちこちに跳ねた。
 セーフ。染みにはなっていない。
 洗い終わった洋服やタオルを洗濯機から引っ張り出して、えいや、とブランケットを放り込んだ。本日二回目の洗濯。