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 ひんやりしたエアコンの匂いで目を覚ますと、みーちゃんはもう出かけていた。ひやひやになったシーツのうえを転がりながら、眠気とじゃれる。しばらくするとお腹がすいて、薄暗い廊下をぺたぺた歩いてリビングへ向かった。
 テーブルのうえには『今日も六時半に帰るね』のメモと、私がつくるはずだった黄色いフレンチトーストが置かれていた。ラップをはがして一口かじれば、前歯がじゅわわっとメープルシロップに浸された。みーちゃんがつくるものは、なんだってうんと甘い。

 冷蔵庫からお茶をだして一気に飲み干せば、身体はぶるりと震えた。この家は朝も昼も夜も、いつだって涼しい。みーちゃんがずっとエアコンをつけるから。

 ――ぜったいに。ぜったいに、窓も、カーテンも、あけないでね。ベランダにも、外にも、ぜったいに出ないでね。

 みーちゃんとの約束。
 そんなの電気代がもったいないと言っても、みーちゃんはだめだと言って譲らなかった。それが「あーちゃんを守るため」なのだと。約束はぜったいに守ってね、と肩を掴んだみーちゃんの手は、熱くて強くて、だけどとても弱々しかった。みーちゃんからは、ときどき枯れた涙の匂いがする。