男の子の問いに、かなではやはり答えられなかった。
もし喋ることができたとしても、きっとどちらを選ぶこともできなかっただろうが。
結局かなでは、細身の男の子に抱き上げられた。お姫様抱っこではなく、お母さんが赤ちゃんを抱くような、縦抱きとでもいうのだろうか。
体調の悪さと、悪口を言われる恐怖、それから恥ずかしさが複雑に絡み合って、かなでは限界を迎えた。
抱き上げられたまま、すとんと、意識を失ってしまったのだ。
気がついたら保健室のベッドに寝ていて、すぐそばの椅子には幼馴染の咲夜が座っていた。
「かなで、目が覚めた? 大丈夫か?」
「…………なんで、咲夜がここに……」
「保健室にかなでがいるって、陸から聞いた」
陸、というのは知らない名前だった。
誰なのかと訊ねると、挙げられた特徴は間違いなくかなでを運んでくれた男の子に違いなかった。
どうやら咲夜と陸は同じ野球チームに入っているらしい。学校の野球部には入らず、なぜわざわざ外の野球チームに入っているのかは分からないが、きっと咲夜と同じで野球が好きなのだろう。
そんなに身体が大きいわけではなかったのに、かなでのことをひょいと簡単に抱えていた。
なんだかすごく、男の人だな、とそう思ってしまった。
「その……陸、くん? って人は、どうして咲夜に知らせたんだろう」
「俺とかなでが幼馴染だって知ってたんだって。まあ、かなでは結構目立つし」
どくん、と心臓が大きく音を立てた。
目立つ。目立つって、どういう風に。
やっぱり男に媚びている、と有名になっているのだろうか。
ブスのくせにあざとい、とか。
ぶりっ子で気持ち悪い、とか。
そんな風に悪目立ちしてしまっているのかもしれない。
顔から血の気が引いたかなでに、咲夜はすぐに気がついた。
どうした? と心配してくれるけれど、うまく息ができない。
助けてほしいのに、助けて、というたった一言が出てこない。
くらくらする頭を回すために、必死に呼吸を整えていると、こんこん、と小さな音が鳴って保健室のドアが開いた。