共通テスト二日間は、無事に終了した。
休み時間のたびにお守りを握りしめ、陸の言葉を思い出した。
俺はなるの味方だよ、と。
あんなに心強い言葉が他にあるだろうか。
おかげでかなでは、調子を崩すことなく、試験に集中できたのだった。
共通テストの後は、私立大学の受験があり、さらに二月の後半には国立大学前期試験が控えていた。
学校は自由登校期間になり、陸と会える回数はがくんと減った。
今までは休日でも学校に行って勉強していたのだが、受験までの体力を考慮して、なるべく家で勉強するようになったのだ。
第二志望、第三志望は無事に合格をもらえた。
第三志望の方は数学が苦手な範囲からの出題で、自己採点が思わしくなかったので、正直ホッとした。
第一志望校の試験も、前期試験から手応えがあった。
ただ合格発表の前に卒業式があるので、ひどく落ち着かない状態で式を迎えることになってしまったのだが、こればかりは仕方がないだろう。
卒業式当日、制服姿の友達とたくさん写真を撮った。
特に陸には、推しと撮れるの最後かもしれないから、と泣きついて、たくさん撮ってもらった。
またいつでも会えるよ、と陸は言ってくれるけれど、プロ野球選手と普通の大学生では生きる世界が違いすぎる。
分かっていたはずなのに、いざお別れのときが近づくと、涙が止まらなくてどうしようもなかった。
「なーる、大丈夫だって。少なくとも一回は会えるでしょ」
「うう…………一回じゃやだぁ、陸くんがいなきゃ生きていけないもんーっ!!」
陸離れをする、と決めていたはずなのに、寂しすぎて陸にしがみついたまま離れられない。
本当にこんな状態で、春から大学生になれるのか、不安でいっぱいだ。
しかも、大学ではひとりぼっち。知っている人のいない環境で、一から人間関係を構築しなければいけない。
不安と寂しさで泣き続けるかなでに、陸は眉を下げて笑った。
「じゃあ会うたびに毎回次の約束をしようか」
「…………え?」
「約束があれば、少しは不安も紛れるでしょ」
それは、これから先もかなでとの関係を続けてくれる、という宣言に聞こえた。
会うたびに。その響きが嬉しくて、かなではこくこくと何度も頷いた。
「じゃあ次は、なるの前期試験の結果が出たら、かな?」
「…………! うんっ! 絶対ね!」
「ん、約束」
陸が差し出してくれた小指に、かなでは自分の小指を絡める。
指切りげんまん、と歌っていると、先生たちに挨拶回りをしていた咲夜と蓮が戻ってきた。
「あはは、かなちゃん、卒業式でも全開だねぇ」
「全開? なにが?」
「りっくん大好きオーラかな?」
かなでは照れながら笑うが、咲夜は隣で大きなため息をこぼす。
「かなで、本当に四月から大丈夫か?」
「大丈夫! あのね、陸くんがね、会うたびに次の約束をしてくれるって!」
だから頑張れちゃう! と満面の笑みをこぼすかなでの後ろで、陸が少しだけ恥ずかしそうに頰を赤く染める。
陸と咲夜の目があった。ほんの少し困ったように笑う陸と、複雑そうな表情を浮かべる咲夜。
そんな二人に気がつき、かなではどうしたの? と覗き込む。
「ん? 咲夜と蓮も、頑張れって言おうとしてたところ」
「うん。りっくんも頑張ってね」
「そうだそうだ! 陸が一番頑張らないとやばいんだからな!」
「こら、咲夜! 陸くんはいつも頑張ってるんだから、追い込むようなこと言わないの!」
プロの世界に入れば、きっと学生の頃とは全く違う努力を求められるのだろう。
それでもかなでは知っている。
陸は、誰に言われなくても、一生懸命頑張れる人だ、と。
「陸くん! 咲夜! 蓮くん!」
かなでは三人の名前を呼び、笑いかける。
そして、一緒にいてくれてありがとうございました! と言って頭を下げた。
三人が驚いていることは伝わってきたが、どうしても伝えたかったのだ。
少し照れくさいので、なんてね、という言葉で誤魔化して、かなでは涙を堪える。
またいつでも会えばいいだろ、と咲夜がぶっきらぼうに言う。
何言ってんの、これからも仲良くしてよ、と蓮が笑う。
こちらこそありがとう、と陸がまっすぐな瞳で見つめてくる。
三人のことが、本当に大好きだった。
四人で過ごせた時間は、かなでにとっての宝物だ。
涙を誤魔化すように空を見上げる。
門出を祝うような、雲ひとつない快晴だった。