外はもう暗い。
 きっと今日も寒いのだろう。
 そんなことを考えながら窓から外を眺めていると、自転車に乗った陸が現れた。
 かなでは慌てて厚手のカーディガンを羽織り、家の外に出る。

「ごめん、前日に」
「う、ううん…………。私も、さっき……取り乱してごめんね」
「大丈夫。気にしてないよ」

 陸はかなり急いできたのか、うっすら汗をかいている。
 こんなに寒いのに、とかなでが身を縮めると、用件三分で済ませるから! と陸がポケットから何かを取り出す。

 丁寧に四つ折りにされた、白い紙。
 差し出されたそれを受け取って、かなでは首を傾げる。

「なあに、これ」
「受験終わってからしようと思ってた話の、ちょっとだけの欠片?」

 話のちょっとだけの、欠片?
 意味が分からずに、かなでは受け取った小さな紙を広げてみる。
 白い紙に黒い字で、好きな人、と書かれている。
 この字は陸のものではない。かなでのものでも、咲夜や蓮のものとも違う。
 だからこそ意味が分からずに、再びこてんと首を傾げた。

「意味分かんないと思うけど、受験のお守りにして」
「えええ……どういうことなの」
「うーん。今言えるのは、俺はなるの味方だよ、ってことかな」

 その瞬間、かなでの手の中にある小さな紙切れが、お守りへと変わった。

 あの頃から何も変わっていない。
 かなでにはやっぱり、陸の言葉が必要だ。
 陸の言葉で世界が明るくなって、少しだけ世界を好きになれる。

 さっきまで不安でたまらなかったはずなのに、陸が味方だよ、と言ってくれただけで、かなでは頑張れてしまう。
 やっぱりどこまでも単純で、陸に依存している。
 迷惑かもしれない。それでも、陸が好きだ。どうしようもなく、大好きだ。

 かなでは大粒の涙をこぼしながら、陸にありがとう、と笑う。
 お守りを優しく両手で包み込むと、陸がその上からそっと手を重ねる。

「明日と明後日? 頑張ってね」
「うん」
「受験が終わったら、話聞いてくれる?」
「…………それはこわい」
「うーん。たぶん、悪い話じゃないよ?」

 陸がやわらかく笑ってそう言うので、かなでも小さく頷いた。

「…………受験が全部終わったら」
「うん、それでいいよ」

 あたたかかった陸の手が離れ、寂しい気持ちに駆られる。
 風邪ひいちゃうからもう入りな、と陸が心配してくれるので、かなでは家のドアに手をかける。

「陸くんありがとう。気をつけて帰ってね」
「ん。なるも、明日と明後日、気をつけてね」

 応援してるから、という陸の言葉を胸に抱き、かなでは家に入った。
 寒かったはずなのに、心だけはぽかぽかしている。
 もらったお守りを再び見つめ、かなではそっと明日の荷物の中に入れた。