体育祭も午後に差し掛かれば、楽しくなってくる。
理由はとても単純で、かなでの出場競技は全て午前中に固まっていたからだ。
あとは応援をしながら見ているだけ。
友達の出番があるたびに声を上げて応援し、午前中とは打って変わって、かなでは体育祭を満喫していた。
「あ! 蓮くんおかえりー! 応援合戦かっこよかったよー!」
「そう? ありがとう」
「動画撮ったからあとで送るね」
クラス対抗応援合戦。
応援の方法は自由で、歌を披露するクラスや、ダンス、チアリーダーが出てきたクラスもあった。
三年七組は、男子総出の学ラン応援団。
嫌がる男子も多かったが、クラスに気の強い女子が多いせいか、女子の意見が採用されたのだ。
学ランを着て、応援団長の掛け声のもと、空手の型のようなものを披露していた。
最初は乗り気でなかった男子たちも、やると決まれば腹を括り、勝ち点を取りにいったのだ。
かなでの視線は陸に釘付けだったが、男子全員が映るように動画を撮ったので、許してほしい。
「次ってなんだっけ。りっくんとさっくんが学ランのまま走っていったけど」
「んーと…………借り物競走だって」
あの二人、ほとんどの種目に出てるね、とかなでは笑う。
陸と咲夜は、部活動を引退してからも自主練習のために身体を動かしているが、どうやらそれだけでは動き足りないらしい。
体育祭の練習も、本番である今日も、やけに楽しそうだ。
ご機嫌な陸の姿が見られて、かなでも幸せいっぱいである。
写真や動画をたくさん撮ったので、勉強に行き詰まったときに見返そうとかなでは思った。
借り物競走が始まった。
男女混合、学年もクラスもごちゃ混ぜの種目だ。
毎年高確率で無理難題が紛れ込んでいるので、借り物が見つからずに走り回る生徒を見るのも名物になっている。
かなでも一年生のときに出場したのだが、吹奏楽部員の上履き、というお題を引いてしまい、ひどく慌てたのを思い出す。
あちこちでお題のものを探す声がする。
「黄色いパンツ履いてる人いない!?」なんていう声も聞こえてきたので、かなでは思わず笑ってしまった。
仮に黄色いパンツをたまたま履いていたとしても、クラスメイトや好きな人にパンツの色を知られるのは恥ずかしい。
あれはたぶん誰も名乗り出ないだろうな、と見守っていると、蓮を呼ぶ大きな声が響いた。
「蓮! ちょっと来て!」
咲夜だった。
蓮が目を丸くし、俺? と首を傾げると、咲夜は応援席の方に乗り込んできて蓮の腕を引いた。
「わ! いってらっしゃい!」
「えええー! なに!?」
「お題が蓮だったんだよ!!」
「なにそれ!?」
賑やかに言葉を交わしながら、咲夜が蓮の腕を引いてゴールに走っていく。
咲夜はかなり足が速いはずなのに、蓮も必死に食らいついていた。
ゴール前の審判に咲夜がお題の紙を渡し、ひそひそと耳打ちする。
蓮には聞かれたくないお題なのかもしれない。
「はい、オーケーです! 三年七組、九条くんゴール!」
一昨年の体育祭の借り物競走では、ゴールするときにお題を読み上げていたはずだ。
守ってあげたい人、というお題に、剣道で全国大会に出場した男子を選んで、アウト判定をもらっていた生徒がいたので、よく覚えている。
疲れた様子の蓮が再び戻ってきて、かなではお疲れさま、と笑いかける。
「咲夜のお題、なんだったの?」
「それが、教えてくれないんだよね。何だったんだろう」
「そうなんだ?」
蓮が気にしているようだったので、かなでは後で咲夜に訊いてみようと思い立った。
そして悪くないお題だったならば、こっそり蓮に教えてあげるのだ。