東星学園野球部は、順当に勝ち進み、甲子園への切符を手に入れた。
 昨年活躍した陸は、どうやら今年も注目選手のようで、テレビでも少し取り上げられていた。

 決勝まで勝ち上がったのを知ったのは、テレビの中継を流していたからだった。
 すぐ後に蓮からも電話が来て、クラスのメッセージグループや学校からの連絡網が鳴り止まない。
 都合がつく生徒は応援に来るように、という昨年と同じ連絡だったが、かなでは行きます、と連絡をした。

 兵庫県にある甲子園球場まで応援に行くため、前泊することになった。
 さすがは由緒ある私立高校。学校のバスを総動員して、たくさんの生徒を乗せて高速道路を走る。
 蓮と合流できたので、バスでは蓮の隣に座り、バスの中でもかなではひたすら勉強をした。
 たまに眠ったり、蓮と会話をしたりしながら、バスに揺られること約七時間。
 宿に着く頃にはすっかり疲れ切っていた。

 野球部のメンバーは違う宿に泊まっているらしく、陸や咲夜と会うことはできなかった。
 東星学園野球部の寮生たちは、野球に集中するため、スマートフォンも普段は監督に預けている。
 かなでは二人に連絡する手段を持っていない。
 野球部のマネージャーをやっていたならば、こんなときでも声をかけられたのかもしれない。
 でも、野球に興味のない人がマネージャーをやるのは選手に対して失礼だと思うから、かなでの選択は間違っていなかった、と思うのだ。

 どうか二人が怪我なく実力を発揮できますように。
 伝えることはできないけれど、かなでは心の中で祈るのだった。

 決勝戦当日は、雲一つない快晴だった。
 うだるような暑さの中、蓮が貸してくれた日焼け止めをしっかり塗り、スタンドに入る。
 東星学園は生徒が多いため、応援の人数もかなりのものになる。
 レギュラーメンバーのクラスメイトや友人は、優先して前の方に通してもらえた。

 球場内は応援席が全て埋まっているように見えた。

 こんなに多くの人に見られる中でスポーツをするなんて、緊張しないのかな。

 そんなことを考えていると、スタンド席にいる、ベンチメンバーに入れなかった野球部の男の子と目が合ってしまう。
 同じクラスにはなったことがないけれど、たぶん三年生だ。咲夜と話しているのを見たことがある。
 目が合ったのに、そのまま逸らすのはなんとなくためらわれて、かなではぺこりと小さく会釈をした。
 するとその男子は隣の部員に話しかけ、あたりの部員の視線が、かなでに集まる。

「えっ、えっ、なに!?」
「どうしたの、かなちゃん」
「蓮くん! なんかあっち側! 野球部の人たちにすごく見られてるんだけど……!」
「んー、超見られてるね。人気者じゃん」
「そんなわけないよ! 話したこともないもん!」

 野球部の知り合いなんて、陸と咲夜しかいない。
 かなでが隣に立つ蓮の背中に隠れるようにすると、ようやく視線の嵐がおさまった。
 しかし、一番最初にかなでと目があった部員だけが、その場を離れた。

 何だったんだろうね、と蓮が首を傾げ、かなでも同じようにこてんと首を傾げた。