何か話さなきゃ、と思うのに、言葉が出てこない。
先に口を開いたのは、陸の方だった。
「説教の続き、していい?」
「えっ、さっきのお説教だったの!?」
「そうだよ。なるの危機管理がいかになってないか、っていう説教」
陸は小さく笑う。
先ほどまではどこか空気が張り詰めているような気がしていたが、陸が笑うだけで空気は和らぐ。
せっかく二人きりになれたのだから、話の内容はお説教でもいいや、と開き直ったかなでは、正座をして陸を見上げる。
「これはなるもさすがに分かってると思うけど、男の前で胸の話とかしたらダメだから」
「うう、それは本当にすみません……」
「男は単純だから、そういう話聞いたら簡単に想像とかしちゃうし…………つまり、気をつけてね、本当に!」
想像? とかなでが首を傾げると、陸は頰を赤くして目を逸らした。
そのまま何も答えは返ってこなかったので、自分で考えを巡らせる。
胸の話から想像する、っていったら、身体?
ああ、裸を想像しちゃうってこと!?
かなでが驚いて、「えっでも私胸ちっちゃいんだよ!?」と言うと、陸が真っ赤な顔で固まる。
あ、また悲しい事実を好きな人の前で口にしてしまった。
かなでが「待って、今のなし! 一応あるから! ちゃんと!」と言い直すが、陸は頭を抱えてしまった。
「…………なる、本っ当にその話、男の前でしちゃダメ」
「あっ、はい!」
「いよいよ心配なんだけど……。なる、今までよく無事に生きてこられたね…………」
少し暑いのか、制服のシャツを腕まくりして、陸は窓の外に目をやる。その頰がまだ赤いままだったので、かなでも静かに陸の横顔を眺めていた。
しばらくして、かなではずっと気になっていたことを口にした。
「…………萌さん、優しい人だったね」
「そうだ。萌にナンパから助けられてたでしょ。ああいうのも、着いていったらダメだよ」
「ナンパだと思わなかったの。萌さんが声をかけてくれてよかった」
萌は昔から正義感が強いから。
懐かしむような表情で陸が呟く。
もしかしたら、陸も萌に助けてもらったことがあるのかもしれない。
幼馴染特有の気安い関係と、いつでも触れられそうな近い距離感。
陸と萌が築いてきた時間が、ありありと浮かび上がっていた。
でも、だからこそ気になって仕方がない。
萌と友人の麻衣のやりとり。
『あんた駿介がいるくせに、こんなイケメンと仲良くしてんの?』
『陸ちゃんは幼馴染だから! それに矢吹くんにはちゃんと言ってきたし!』
かなでが言葉選びに悩んでいると、陸が小さく笑った。
「なる、百面相してる」
「えっ、恥ずかしい!」
「…………何か訊きたいんじゃないの。いいよ、訊いても」
やわらかく微笑む陸には、かなでの考えなどお見通しのようだった。
お見通しなら、知らんぷりをして話を逸らすことだってできたはずだ。
それでも訊いていい、と言ってくれるのだから、陸はやっぱり優しい。
かなでは少し考えて、再び口を開いた。