萌の友人だという篠原麻衣という女の子は、萌とは違うタイプだが、人目を引く美人だった。
派手な髪色に短いスカート、はっきりとしたメイクは、気の強そうな顔立ちを引き立てている。
麻衣は陸の顔をまじまじと見つめ、強い目力で萌を睨みつける。
「ちょっと萌。あんた駿介がいるくせに、こんなイケメンと仲良くしてんの?」
見た目通りかなり気が強そうだ。
それよりも、かなでは突然出てきた男の人の名前が気になった。
麻衣に突っかかられた萌は、大きくため息を吐いて言い返す。
「あーあー絶対言うと思った! 陸ちゃんは幼馴染だから! それに矢吹くんにはちゃんと言ってきたし!」
「はああ!? 意味分かんない!」
状況が理解できないのは、かなでだけだろうか。
その言い方だとまるで。
ぱっと陸の方を見ると、陸はかなでの視線に気付き、眉を下げて笑う。その表情にはどこか悲しそうな色が含まれていて、かなでは唇を噛んだ。
「…………あれ? あんたドレスの子じゃない?」
ふいに、麻衣がかなでの顔を覗き込む。
かなでは驚いて飛び上がった。
陸がくすりと笑い、そうだよ、と答える。
麻衣にじろじろと見られるのが気まずくて、陸の背中に逃げ隠れた。
「ふーん。舞台の上と全然雰囲気違うね」
「あ、あれは…………モデルの子が体調悪くて出られなくなっちゃって、代役で、必死だったから……」
「そうなの? でもあのショーで、あんたが一番かっこよかったよ」
代役だなんて、言われなきゃ分かんなかった。
麻衣のその言葉が嬉しくて、かなではひょこ、と陸の背中から顔を出す。
「本当ですか?」
「嘘つく理由なんてないでしょ。ねぇそれよりさ、あんた胸小さくない?」
「!!」
「ドレスのときもっとスタイルよかった気がするんだけど……」
麻衣のストレートな質問に、かなでは慌てて答える。
モデルの急病で、衣装が入るのはかなでしかいなかったこと。
胸のサイズが足りなくて、胸にパッドを詰めたこと。
そして、それはかなでが見栄を張ったわけではなく、ドレスをきれいに見せるために仕方なかったこと。
あたふたしながら必死で説明するかなでに、萌が言いにくそうに口を開く。
「えーっと、かなでちゃん?」
「えっ、はい!」
「それ、陸ちゃんに聞かれて大丈夫な話?」
え? と首を傾げた後、かなでは顔を上げる。背中に隠れてしまっていたので、陸の表情は見えない。でも陸の耳は真っ赤に染まっていた。
どうして陸が耳を赤くしているのか、その理由を考えて、かなでは固まった。
胸のサイズが足りなくて、胸にパッドを詰めて……。
恋する乙女にあるまじき発言である。
よりによって好きな人の前で、自分の胸が小さいことを暴露してしまった。
かなでの頬もじわじわと赤く染まっていく。恥ずかしさに耐えかねて、その場にしゃがみ込んだ。
珍しいことに、陸が大きなため息をこぼした。
そして萌と麻衣に楽しんでいってね、と告げると、かなでの腕を引いて立ち上がらせる。
「ほら、戻るよ、なる」
陸は耳だけじゃなく、頰も真っ赤に染まっている。
きっとかなでも同じように赤くなっているに違いない。