「高村せんせー!」
「げっ、成海!」

 かなでが職員室に入って、昨年の担任だった高村に声をかけると、あからさまに嫌そうな顔をされる。
 それも仕方のないことだろう。
 かなでは年明けの一月から、終業式のある三月までの間、ほとんど毎日職員室を訪ねていたのだから。
 それが勉強に関する質問だったなら、積極的な生徒だと可愛がられたかもしれない。
 残念ながらかなでの場合は違った。

「先生のおかげで陸くんと同じクラスでした! ありがとうございますっ!」
「やっと成海の押しかけから解放されると思うと、ようやく安心して眠れるよ……」
「私も昨日眠れなかったです! 今日のクラス分けがこわすぎて!」

 あはは、と笑うと、高村は肩を落として大きくため息を吐いた。

「一応もう一度確認するぞ? 就職希望クラスだけど、絶対に大学に進学するんだよな?」
「はい! それはもう絶対に! 神に誓って!」

 かなでは元々学業成績は上々だ。部活動はやっていないので、暇があればアルバイトか勉強に励んでいるのだから当然だろう。なのでもちろん、高校卒業後は大学に進学するつもりだった。
 しかし、陸が野球のプロを目指している、と聞き、かなでは慌てて進路調査表を就職希望に書き換えた。
 陸が大学に進学しないのであれば、彼と過ごせる時間は残りわずか。今は仲がよくても、所詮は異性の友達だ。卒業してしまえば疎遠になってしまうに違いない。
 それならば、高校生活の残り一年。何を犠牲にしてでも、陸と同じクラスで過ごしたかった。

 考えた末に、かなでがとった行動は、担任と学年主任への嘆願だった。
 就職希望に変更したけど絶対に大学に進学します、成績も落としません、必要ならうちの高校の進学実績に残るような大学に進学してみせます。
 強い熱意で語り、その上で陸と同じクラスになりたい、とお願いし続けた。
 陸と同じクラスじゃなかったら不登校になっちゃうかも、と少し脅迫まがいなことも口にしてしまったが、さすがにそれは反省している。
 その熱意を聞き入れてもらえたのか、はたまた別の理由かは分からない。でも結果として、かなでは陸と同じクラスになることができたのだった。

「高村先生! 私、勉強頑張りますっ!」
「まあそうしてくれ……」

 げんなりした様子の高村に、しっかりと宣言を残し、かなでは陸の待つ三年七組に向かうのだった。