やったー! と一番に声を上げたのは、かなでだった。
それから我に返り、失礼しました、と赤くなった頰を押さえて一礼する。
くすくすと笑い声が上がり、さすが陸くんのわんこ、とからかう声も聞こえてきた。
かなでが忠犬ハチ公のようだ、と言われているのは、かなで自身の耳にも届いている。
陸は気にすることないよ、と言ってくれるけれど、犬だ、わんこだ、と言われるたびにバカにされているのを感じてしまう。
それでもかなでは、今の生き方を変えることができないのだ。
かなでにとって陸は、生きるための原動力で、精神安定剤で、そして、大好きな人なのだから。
「他にショーに出てもいいよって人いる?」
話題を変えるように、蓮が話を進めてくれる。
クラスで一番美人な優里香と、おしゃれ好きの菜穂が立候補してくれた。
モデル役は男女二人ずつ。あと一人、男子がなかなか決まらない。
男の友人で気安く頼める相手といえば、咲夜しかいない。かなでがじっと視線で訴えると、咲夜はすごい勢いで首を横に振った。
かなでと咲夜のやりとりを見ていたのだろう。
かなでの隣で、蓮がふっと笑みをこぼす。そして「さっくんは照れ屋だから無理そうだね」と小さな声で呟いた。
幼馴染が困ってるんだから、助けてくれればいいのに。
かなでがぷく、と頰を膨らませると、蓮が助け舟を出してくれる。
「じゃあ俺がやろうかな。ヘアメイクと兼任で」
「蓮くんありがとう……!」
持つべきものは気の利く優しい友人だ。
出し物も役割分担も、蓮のおかげでスムーズに決めることができた。
同じ文化祭実行委員でも、これでは蓮の負担が大きすぎる。
せめて本部に提出する企画書や、ファッションショーに必要な道具などの下調べは、かなでがしなくては。
やることを思いつく限り手帳にメモして、顔を上げる。陸と目が合った。心配そうな顔でかなでを見つめていたので、大丈夫だよ、という意味を込めて微笑む。
小さく頷いてくれた陸に、また元気をもらった。
かなでは胸があたたかくなるのを感じながら、再びファッションショーの企画を詰めていくのだった。