本来ならば三年に一度の文化祭。それが、急遽体育祭と同じ年にまとめて開催されるということで、日程は六月末日になってしまった。
 六月、つまり準備期間はわずか二ヶ月。そして高校三年生は、部活動にかける想いも一味違う。最後の夏を、最高の夏にしたいと思っている生徒はたくさんいるだろう。
 各クラスで出し物を出さなければいけないが、選択肢は限られてくる。
 部活動の練習の邪魔にならず、そして二ヶ月で準備のできるもの。

「何かやりたいものある人ー?」

 教壇の前に二人で並び立ち、蓮がクラスメイトに向かって呼びかける。
 メイド喫茶。コスプレカフェ。お化け屋敷。演劇にバンド。
 いろんな案が上がる中、一番票が集まったのはファッションショーだった。

「ファッションショー…………準備が大変そうだけど、楽しそうだね」
「ね。舞台はやっぱり体育館借りたいな。そこの手配は俺がやる。あとは班分けだな」

 進行役の蓮が上手なのか、行き詰まることなく話し合いは進んでいく。
 どんな班が必要か、という質問に対しても、衣装のデザイン班、衣装製作班、ショーに出る演者、小物作り、演出班など意見がどんどん出てくる。
 慌ててかなでは黒板に書き出していく。積極的な人が集まっているクラスのようで、班分けの希望もどんどん名前で埋まっていった。

「はい! 提案があるんですけど」
「どうぞー」
「速水くんにショーに出てもらいたいです!」

 顔を真っ赤にして発言したのは、陸の追っかけ仲間の桜井美月だ。
 美月は野球部の練習や試合を見に行くほど、熱心なファンだ。
 昨年の夏、応援に行った甲子園の試合を見て、すっかり好きになってしまったらしい。
 かなでほど陸にべったりくっついているわけではないが、美月もよく陸に声をかけにくる。
 最初は敵視されていたのだが、かなでの感情が『恋』ではなく『推し』に対するものだと知ってからは、気さくに話しかけてくれる。

 美月天才ー!
 名案じゃん!
 私も陸くんに出てほしいー!

 そんな声が次々と上がり、クラスの中が賑やかになっていく。
 当の陸は困り顔で辺りを見回している。

「えーっと、私もね、正直かっこいい衣装を着た陸くんは、すっごく、すっごく……! 見たいけども!」
「二回言ったね」

 蓮が茶化す言葉を横から投げかける。
 かなでは少し恥ずかしくなったが、頰が赤いのは承知の上で、言葉を続けた。

「でも文化祭は陸くんにも楽しんでもらいたいから、陸くんの意思を尊重した方がいいと思うの……!」

 陸が驚いた顔でかなでを見つめている。
 いつも陸のことが大好き! とかなでは公言しているので、陸のかっこいい衣装姿を絶対に見たい! と言い張ると思っていたのかもしれない。
 どうかな、とかなでが訊ねると、陸は数回目をまたたかせた後、小さく笑った。

「…………俺でいいなら」