家業に基づき植え付けられた教訓が。
時代を顧みない、古くからの馬鹿げた発想そのものが大嫌いだった。
確かに自分は決して大人しくない。
何ならいつだって大人しかった試しがなかった。
その度に父達からもよく叱られて。
周りからは呆れられてた記憶しか残らない。
それでもやっぱり型に収まる行為が大嫌いで、言われたことに黙って従うこともせず、自分らしく過ごしてきた。
髪だってバッサリ切っては男勝りなショートヘアに。
窮屈が嫌いだからって、着物より履き慣れたズボン。
肌だって日焼けを意識したこともないから、外に出歩きすぎて真っ暗だ。
名家の令嬢らしからぬ容姿と行動には、いつだって周りからの視線が冷たく突き刺さった。
名家の恥だ、可愛げがない、器量も上品らしさも感じられない。
——運良く相伝を引き継げただけ。それ以外は無能な残念な子。
そんなこと、もう言われ慣れてるではないか。
伝統保守派の一族に生まれてきた時点で、そんな扱いされるのは百も承知。
それでも家の相伝を引き続げただけまだマシだった。
この歳にしては似合わない、最近では変に助長地味た言葉にさえ聞こえてくるようになった。
ならもう、あの人達も私も。
最初から可笑しかったのかも知らない。
「馬鹿馬鹿しい」
だがその一言で私はハッと我に返った。
意外にも、彼の口から出た反応は自分の予想を大きく外れたのだ。
「なんで俺がそんな下らねぇこと態々思わなくちゃなんねーの?俺はただお前に興味があるだけだ」
「私に?」
私は目をまるくした。
そんなこと言われたのは生まれて初めてだったからだ。
「別に。歩いてたらお前を偶々見つけたから来たってだけ。なんでそんなことしてんの?」
彼の視線の先には、私の手に萎れた状態で握られた数本の花。茎は折れて、花びらが所々散ってしまっている。
どうやらさっきの喧嘩でダメにしてしまったらしい。
「…見せてあげるの」
「誰に?」
「…お母さん」
ポツリと声を漏らせば、ふーんと気の抜けた返事が男の子からは聞こえてきて、彼は私の隣へしゃがみ込んだ。
「なら俺も手伝う。どれ摘めばいいの?」
もしかして手伝ってくれるのだろうか?
声は幾分か落ち着いていた。
「そのピンクのやつ」
「分かった」
さっきの威勢はどこへやら。
男の子の目は真剣そのもので、指示した通りに無言のまま花を摘み始めるので、私も一緒になって作業を再開する。静かな空間には花を摘む音だけが響いた。
まだ朝も早いとあってか、やけに静かだ。
でもなんだかそれが今の自分には心地よかった。
「…本当はね」
私はふと、作業の手を止めると目の前に佇むものに視線を向けた。するとそこには一本の桜の木が立っていた。
「あれを見せてあげたかったんだ」
見れば開花時期ともあってか、木には沢山の花が咲き誇れば満開だった。
「お母さん、あの花が一番好きだったから」
「だった?」
彼はその言葉に謎の違和感を覚えた。
「お母さん…あれから目を覚さないの」
紬のその一言で、彼は一瞬目を見開いた。
「でもきっとそれは私のせい。私が生まれたせいで。お母さんは目を覚ますことも、部屋から出ることさえできなくなった」
だからあの人の好きだった桜の花を持っていけば、目を覚ますかなって。
そんな私の話を彼は黙ったまま耳を傾けていた。
「やっぱお前なんだな。櫻木家相伝、追憶の異能を引き継いだっていう娘は」
男の子はそう言い静かに立ち上がると、手に持つ花束を私へと差し出した。
「ほら。お前の母ちゃん、早く目覚ますといいな」
「うん、ありがと」
私はお礼を言えば花束を受け取った。
そしてふと気になった。
一体、この子は誰なのか。
「それで、貴方は誰?」
「だから、人にもの言う時は自分から先に名乗れよ」
その言葉に私は再度ムカついた。
一体礼儀知らずなのはどちらの方が。
だが不本意ながら、確かに名乗らない自分にも一理あるなと考えれば渋々口を開いた。
「…櫻木紬」
「俺は白桜志月」
時代を顧みない、古くからの馬鹿げた発想そのものが大嫌いだった。
確かに自分は決して大人しくない。
何ならいつだって大人しかった試しがなかった。
その度に父達からもよく叱られて。
周りからは呆れられてた記憶しか残らない。
それでもやっぱり型に収まる行為が大嫌いで、言われたことに黙って従うこともせず、自分らしく過ごしてきた。
髪だってバッサリ切っては男勝りなショートヘアに。
窮屈が嫌いだからって、着物より履き慣れたズボン。
肌だって日焼けを意識したこともないから、外に出歩きすぎて真っ暗だ。
名家の令嬢らしからぬ容姿と行動には、いつだって周りからの視線が冷たく突き刺さった。
名家の恥だ、可愛げがない、器量も上品らしさも感じられない。
——運良く相伝を引き継げただけ。それ以外は無能な残念な子。
そんなこと、もう言われ慣れてるではないか。
伝統保守派の一族に生まれてきた時点で、そんな扱いされるのは百も承知。
それでも家の相伝を引き続げただけまだマシだった。
この歳にしては似合わない、最近では変に助長地味た言葉にさえ聞こえてくるようになった。
ならもう、あの人達も私も。
最初から可笑しかったのかも知らない。
「馬鹿馬鹿しい」
だがその一言で私はハッと我に返った。
意外にも、彼の口から出た反応は自分の予想を大きく外れたのだ。
「なんで俺がそんな下らねぇこと態々思わなくちゃなんねーの?俺はただお前に興味があるだけだ」
「私に?」
私は目をまるくした。
そんなこと言われたのは生まれて初めてだったからだ。
「別に。歩いてたらお前を偶々見つけたから来たってだけ。なんでそんなことしてんの?」
彼の視線の先には、私の手に萎れた状態で握られた数本の花。茎は折れて、花びらが所々散ってしまっている。
どうやらさっきの喧嘩でダメにしてしまったらしい。
「…見せてあげるの」
「誰に?」
「…お母さん」
ポツリと声を漏らせば、ふーんと気の抜けた返事が男の子からは聞こえてきて、彼は私の隣へしゃがみ込んだ。
「なら俺も手伝う。どれ摘めばいいの?」
もしかして手伝ってくれるのだろうか?
声は幾分か落ち着いていた。
「そのピンクのやつ」
「分かった」
さっきの威勢はどこへやら。
男の子の目は真剣そのもので、指示した通りに無言のまま花を摘み始めるので、私も一緒になって作業を再開する。静かな空間には花を摘む音だけが響いた。
まだ朝も早いとあってか、やけに静かだ。
でもなんだかそれが今の自分には心地よかった。
「…本当はね」
私はふと、作業の手を止めると目の前に佇むものに視線を向けた。するとそこには一本の桜の木が立っていた。
「あれを見せてあげたかったんだ」
見れば開花時期ともあってか、木には沢山の花が咲き誇れば満開だった。
「お母さん、あの花が一番好きだったから」
「だった?」
彼はその言葉に謎の違和感を覚えた。
「お母さん…あれから目を覚さないの」
紬のその一言で、彼は一瞬目を見開いた。
「でもきっとそれは私のせい。私が生まれたせいで。お母さんは目を覚ますことも、部屋から出ることさえできなくなった」
だからあの人の好きだった桜の花を持っていけば、目を覚ますかなって。
そんな私の話を彼は黙ったまま耳を傾けていた。
「やっぱお前なんだな。櫻木家相伝、追憶の異能を引き継いだっていう娘は」
男の子はそう言い静かに立ち上がると、手に持つ花束を私へと差し出した。
「ほら。お前の母ちゃん、早く目覚ますといいな」
「うん、ありがと」
私はお礼を言えば花束を受け取った。
そしてふと気になった。
一体、この子は誰なのか。
「それで、貴方は誰?」
「だから、人にもの言う時は自分から先に名乗れよ」
その言葉に私は再度ムカついた。
一体礼儀知らずなのはどちらの方が。
だが不本意ながら、確かに名乗らない自分にも一理あるなと考えれば渋々口を開いた。
「…櫻木紬」
「俺は白桜志月」