これから夢を追いかけようとしている私。夢を追いかける姿に惹かれた彼。

 私達の将来を想像するにはあまりに現実的な話だった。

 「……そんなの、耐えられる?」

 私は黙ったまま、母を見つめ返した。

 「華梛と二人の生活は、楽しいよ。こんなに素敵な娘がいて幸せだなって思う。だけどやっぱり、女手ひとつで生活をしていくのは、辛いと思う日もあるの。だから、華梛には同じ思いをしてほしくなかった」

 頑なに言われ続けてきた、母の理想の将来。

 それを望む母の本当の理由を知り、私は、苦しいほどにその気持ちを理解してしまった。

 「私も、そんな将来が一番安心できて、きっと幸せなんだろうなって、思ってた。だから、お母さんが勧める堅実な道を選んできたの」

 真っ直ぐ見つめ返した私に、お母さんはその先を察したようにゆっくりと瞬きをした。

 「でも、それでもなりたいと願ってた。ずっと、心のどこかでこれでいいの?って思ってた。
 だから、一度頑張ってみたい。諦める時が来るかもしれない。だから、そうなったとき、道を失わないような準備もする。
 お母さんを心配させるようなこと、絶対にしないから」

 強く言い切ると、母は小さく笑みをこぼした。

 「そうね、華梛はお父さんとは違うよね。私自身の経験だけで、華梛を守ろうと必死だった。それが、貴方を閉じ込めることになっているだなんて思いもしなかった、ごめんなさい」

 申し訳なさそうに言った母に、慌てて首を振る。

 「私、閉じ込められたなんて思ってないよ。お母さんのことは大好きだし感謝してる。その気持ちは変わらない。
 だから、夢は一つじゃないの。気象予報士の夢も、お母さんの自慢の娘でいることも、どっちも諦めない。それじゃだめ?」

 母の瞳がきらりと光る。
 その光に、私の胸もじんわりと熱くなった。

 「貴方の人生だからそこまで覚悟が決まってるなら、もう反対はしない。応援するから」
 「うん、頑張る。ありがとう」

 長い時間をかけて語り合い、数週間ぶりに笑いあった夜は、凄く凄く温かかった。