温度を奪われて割れた羽の付け根に、容赦のない雨が降り注いでいた。

 ロウは、暗闇の中息を切らして逃げていた。自分の羽の温度を奪った相手——レドから。見つかったら、今度は瞳の温度を奪われてしまう。

 濡れて纏わりつく衣服に絡めとられるように足がもつれた。足裏に空白を感じたときにはもう遅かった。
 ロウは体勢を崩し、月もない漆黒の空を仰いだ。夜、雨の中、崖の淵を遮二無二走っていればそうなる。そんな当たり前の後悔と共に、背中に地面の遠さを感じていた。突き出した掌が掴んだのは雨粒二滴。瞬間——重力に叩き落された。