夏休み。
 それでも私達は学校に行く。
 部活があるからだ。
 夏休み中はスクールバスがないため、自転車で学校まで通う。

 平日はほぼ毎日部活がある。
 部活動は三つ。
 人数が少ないので、全員がすべての部活をやらなければいけない。
 卓球、陸上、太鼓である。
 卓球と太鼓は一年を通して、陸上は秋の大会に合わせて夏休みの時だけやっている。
 基本、午前中のみ部活をする。
 そのため、卓球一時間、陸上一時間、太鼓四十五分と、時間を区切って行っていた。

 初めに陸上を行う。
 みんな百メートル走に出る。
 真夏の走り込みは、一時間とはいえ地獄だ。
 ちなみに、他校とは違い陸上には力を入れておらず、出場しても下から数えた方が早い順位だ。
 ちなみに、今秋の大会でも例年通りの結果であったことは言うまでもない。

 陸上の次は、卓球だ。
 卓球は、スポーツ少年団として小学校の頃からやっている。
 しかし、陸上と同様、あまり力が入っていないため、温泉卓球並の技術で和気あいあいとやっている。
 そこに先生が入ると、まさしく温泉卓球になる。
 先生方の中に卓球の経験者がいないため、この時とばかりに先生のことをこてんぱんにできる。

「スパコーンッ!」
「いってー! お前、オレに恨みでもあんのかッ!?」

 加減するつもりなどさらさらなく、経験のない川村先生相手に、容赦なくスマッシュを打つ。

「いや、恨みなんてないんですけど……。先生、チャンスボールばかり出してくるので……しかも、スマッシュしやすい丁度良い高さのボールだし、ついつい」
「お前は加減を覚えろ!」
「はい! すみません!」

 まだラリーが続くだけでも良い方だ。
 回転サーブを出すと、返すことすら出来ないこともある。
 まるで先生のための部活のようだ……。
 卓球の時だけは、川村先生も内藤先生も楽しそうだ。
 というか、遊んでいるようにしか見えない。

 一時間もあっという間だ。
 卓球台を片付け、休憩後、太鼓の準備をする。
 太鼓は、地元の行事やお祭のほか、文化祭や卒業式、閉校式、先生方の送別会でも披露する。

「先生もやってみよーっと」

 川村先生と内藤先生は興味があるようで、倉庫からバチを持ってきた。

「部長どうします?」

 靖朗が私に聞いてきた。
 私は、3つの部活の部長でもある。

「んー。まー、いいんじゃない? みんなはどう思う?」
「小太鼓ならいいんじゃない? ずっと一定のリズムで叩くだけだし」

 千秋が言った。

「そうだね。んじゃー、先生用に小太鼓二台準備しようか」

 そういうと、後輩たちが率先して準備をしてくれた。

「じゃー、祭ばやしからやろうか」

 祭ばやしは、特大太鼓を靖郎、かねは淳、小太鼓はふー、中太鼓は私と千秋、きらり、明日香が担当する。
 私は太鼓の枠を打ち、合図を出した。

 特大太鼓のソロから始まり、メロディー担当の中太鼓が打ち込みをする。
 その後、小太鼓が合図で曲が始まるのだが……。
 ん? 
 小太鼓のリズムがバラバラで叩きづらい。
 私は太鼓の枠を連打し、ストップの合図を出した。

「待って! なんじゃこりゃ?」
「部長、先生二人でーす」

 淳が言った。
 でしょーねー。

「以外と難しいなー」

 先生達は言った。
 それもそうだ。
 小太鼓をマシに叩けるようになったのは小学校三年生の時である。
 私達でさえ、丸三年はかかっているんだぞ。
 この日は先生達に叩き方を教えて、部活は終わった。
 次の日からは、先生達は私達が叩いている様子を見るだけになった。

 お昼のお弁当を食べるために図書室へ戻った。
 午後、宿題をするためだ。
 学校でやった方が捗る。
 二年生は弁当を食べて帰って行った。
 三年生だけが残った。

「今日の部活はハチャメチャだったねー」

 私がそう言うと、千秋とふーは頷いた。

「もはや、先生達の楽しみに付き合っている感じがした」

 千秋が呆れながら言う。

「なっつ、卓球の時、川村先生をいじめているように見えて笑っちゃったよ」
「いじめてないよ! 先生が弱すぎて、練習にならなかったんだよ」

 ふーが私をからかってきた。

「そういや、二人とも高校決まったのー?」

 千秋から進路の話を持ちかけた。

「うちは隣町の進学校にするー。川村先生が勧めてくれたし。成績からしても、その学校が良いって言われてさー」
「へぇー。ふーは?」
「まだー。全然、受験生の実感が沸かない。なっつは?」
「まだ迷ってるー。迷っている高校はどっちも隣町の高校なんだけどね」

 真面目に高校を決めないと……。
 そろそろ受験に向けての準備が始まる。
 焦りと同時に、あとどのくらい三人が一緒にいられるのかと考えると、寂しさが込み上がってきたのであった。