葵の十六歳の誕生日に日付が変わると、図ったかのように、雨が降り始めた。
龍神様が花嫁と離縁するときに降らせる離縁の雨だ。三日三晩振り続ける雨が花嫁に加護を与え、龍の眷属である竜堂家にも繁栄をもたらすという。
一日目はしとしとと穏やかだった雨は、夜になるにつれて激しくなり、三日目には雷も轟くほどの豪雨となった。
止む気配のないほどの大雨だが、どれだけ降ったとしても、四日目の朝は必ず晴れる。
離縁の雨とはそういうものだ。
雨が降り続いて三日目の夜。葵は美雲神社を去る覚悟を決めて眠りについた。
ところが……。どういうわけか、四日目の朝が来ても、まだ雨が降り続いていた。
花嫁の誕生日から四日が経っても雨がやまない。
これは長年龍神様に花嫁を捧げてきた竜堂家にとって、初めての出来事だった。
異例の事態に、竜堂家では書庫に保管してある古い文献をいくつも漁ったようだが……。
離縁の雨が花嫁の十六歳の誕生日を三日過ぎても降り止まなかったという記録は見つからなかったらしい。
それから五日が過ぎ、一週間が過ぎても離縁の雨がやむことはなかった。
雨はときに弱まったり激しくなったりしながら、降り続き、ついには十日が過ぎてしまった。
降り続く雨は、美雲神社の外で水害をもたらした。
川の増水や家への浸水、田畑や家畜の損害。そういうことに困った人たちが、美雲神社に押しかけてきた。
多くの人が、一つ目の龍神様が暴れているせいで雨がやまないのだと考えていて、「龍神様のお怒りを鎮めろ」、「龍神様の花嫁に雨を止めさせろ」と訴えてくる。
けれど、葵に雨を止ませる力などなく、ましてや一度も会ったことのない龍神様の気を鎮められるわけもない。
だいたい、降り続く雨がほんとうに龍神様のせいなのかもわからないのだ。