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「あなたが右京さまのことを特別に思っていたという話は、親類縁者の情報網から取得しました。右京さまが亡くなられた当時も、あなたの心の荒れ様と、呪いを生み出した回数もそれはそれは凄まじかったらしいですね」
スピーカーの向こうから、あきらかに疲弊した璃子の声が届く。彼女は一時間ほど情報収集に奔走した後、改めて天満のスマホに電話をかけてきた。
その間に、呪いを連れた天満は擬似的なデートを楽しみ、今は南へ下って伏見稲荷大社の境内をぶらついていた。等間隔に並んだ何百基もの鳥居が、赤いトンネルのように二人を囲んでいる。伏見稲荷名物・千本鳥居だ。
「なるほどねえ。ずいぶんと口の軽い親類縁者がいたもんだ。それで、謎は解けたのか? 俺がなぜ、今になってまた呪いを生み出してしまったのか」
まるで挑発でもするかのような天満の態度に、璃子は「遊びじゃないんですよ」と恨めしげな声で返す。
「右京さまが亡くなったことで、あなたが彼女の後を追おうとした心理はわかります。でも実際にそれで呪いを生み出してしまったのは、あなたがまだ幼かった頃の話でしょう。ここ十数年は、あなたの精神は安定していたはずです。ですから、わからないんです。あなたがなぜ、今になって右京さまの幻影に取り憑かれているのか」
「そんじゃ、まだ何も手掛かりは掴めていないってことだねぇ」
「他人事みたいに言わないでくださいよ。というか、あなたはすでに気づいているんじゃないんですか? 呪いを生み出す決定打となった出来事が何なのか」
「さあねぇ。そっちこそ、本当に何も目星はついていないのか? そっちは俺と違って複数人で推理してるんだろ。分家の人間の寄せ集めで」
「寄せ集めって言わないでください。これでも結構真剣にやっているんですよ。さすがに、あなたにいま死なれたら血縁者は皆困りますから……」
そこまで言うと、彼女は急に静かになった。どうやらスピーカーの向こうで誰かと話しているらしい。やがて数十秒ほどしてから、彼女は戻ってきた。
「ええと。今日は八月十六日なので、お盆の最終日ですよね」
その指摘に、天満は「ああ」と答えながら期待値を上げた。日付に目をつけるとは、彼女たちもなかなか良い線をいっている。
「そうだな。お盆の最終日といえば、現世に帰ってきたご先祖様の霊を再びあの世へと見送る日だ。死者を悼むという点で、右京さんとの関連性もある。でも、それだけだとまだ不十分だな。お盆の時期に俺が呪いを生み出すというのなら、この十数年はなぜ平気だったのかという問題が残る」
「何かきっかけがあったんですよね。今年に入ってから……というか、今朝何かあったんですか?」
「だからそれを推理しろと言っている」
「うーん……八月十六日……。もしかして、今日は右京さまの命日だったりします?」
「当てずっぽうはダメだぞ。彼女が亡くなったのは年の暮れだ」
「ぐぬぬ……」