***
宮凪海くんへ
臆病だった私が高校生になって、真木さん以外の友達ができました。
同じ学校では、初めての友達です。
読書が好きな子で、物語を書いているみたいです。
この前、少しだけ読ませてもらったら、とても素敵で引き込まれました。
その子の影響もあって、一番は宮凪くんなんだけど、実はまた、詩を書き始めました。
まだ人様に見せられるようなものじゃないけど、これから詩集などに挑戦してみたいなと考えています。
冊子にしたら、宮凪くんが最初の読者になってもらえると嬉しいです。
感想ももらえたら、もっと嬉しいです。
それから、今年も蛍がたくさん飛んできれいです。
また一緒に見ようね。
春原蛍より
毎年、八月。宮凪くんの命日に、思い出の河原を訪れる。白い砂を歩いていると、あの頃が昨日のことのように蘇る。
データフォルダを開いて、音楽を流し始めた。宮凪くんの声を聞くと、懐かしさと心地よさで胸がいっぱいになる。
それから、今年も聞いていてね。
真夏の夜に駆け出して
現実から遠ざかって
君はいつもとなりにいると信じてた
決められた時間の中
それはみんな同じで
モノクロの世界をただ
彷徨い続けているだけなのか
一歩踏み出して変えていくのか
取り残された私は今
煌めく未来を夢みて瞼開いた
星屑のような光を
手のひらに放ち 空を見上げてみる
あの日の僕らが手を振って
羽根を広げ笑い合ってる
未完成だった曲の続きを、歌い上げる。あれから歌詞を書き足して、宮凪くんのメロディに声を乗せた。
こうして河原を訪れた際、宮凪くんに聞いてもらっている。少しずつだけど、自分の声も悪くないと思えるようになったの。
日が暮れて、夜が訪れようとしている。河原が暗闇に変わる瞬間──逢魔時。
ぽわんと青い光が現れて、私の目の前で動きを止める。人差し指でチョンと触れると、光が大きくなって人の形になった。
「蛍、久しぶり。また来てくれたんだ」
キラキラと輝く宮凪くんが、静かに微笑む。半透明の体は、川の向こう側をも映している。
「一年ぶりだね。またこの季節がやって来ました」
「髪、けっこうバッサリ切ったな」
「やっぱり、変かな? 前の方がよかったかもって、ちょっと後悔してて」
「どっちも似合ってるよ」
ほんとかなぁと、イタズラに突っ込んでみる。
「俺、嘘ついたことないだろ?」
「あっ、今嘘ついた。宮凪くん、嘘ばっかりなんだもん」
「蛍だって人のこと言えねぇよ?」
たしかにと吹き出し、目が合ってクスクスと笑い合う。
「それにしても、【モノクロームと恋蛍】いい歌だよなぁ〜。俺、音楽の才能あるかな」
「誰も知らないから、秘密だけどね」
「二人だけの歌。その方が特別感あっていい」
うんうんと頷きながら、青い光を見つめる。
「手紙も持って来たから、あとで読んでね。また、来年も聴いてね」
「蛍が歌ってくれるなら。ずっと、待ってる」
小さく手を振って、胸の前でキュッとこぶしを握る。辺りが闇へと包まれていく中、涙がこぼれないよう必死に堪えて。
「バイバイ。絶対、また会いに来るから。一年後で、待っててね」
何度目かの別れを告げた。
一年に一度、宮凪くんから手紙が送られてくる。何年分書いてくれたのだろう。そのメッセージに、私は返事を書く。
きっと、大人になってからも、文字を通して、歌を通じて話ができると信じている。
──知ってる? 人って、一度離れても、ほんとに運命で繋がってる人って、また出会えるんだって。
月明かりに照らされた川へ宮凪くん宛の手紙を流すと、しばらくしてきらきらと水面が輝き始めた。
約束の蛍が、空へ舞い上がっていく。
私たちの想いを、光りに乗せて。
完
宮凪海くんへ
臆病だった私が高校生になって、真木さん以外の友達ができました。
同じ学校では、初めての友達です。
読書が好きな子で、物語を書いているみたいです。
この前、少しだけ読ませてもらったら、とても素敵で引き込まれました。
その子の影響もあって、一番は宮凪くんなんだけど、実はまた、詩を書き始めました。
まだ人様に見せられるようなものじゃないけど、これから詩集などに挑戦してみたいなと考えています。
冊子にしたら、宮凪くんが最初の読者になってもらえると嬉しいです。
感想ももらえたら、もっと嬉しいです。
それから、今年も蛍がたくさん飛んできれいです。
また一緒に見ようね。
春原蛍より
毎年、八月。宮凪くんの命日に、思い出の河原を訪れる。白い砂を歩いていると、あの頃が昨日のことのように蘇る。
データフォルダを開いて、音楽を流し始めた。宮凪くんの声を聞くと、懐かしさと心地よさで胸がいっぱいになる。
それから、今年も聞いていてね。
真夏の夜に駆け出して
現実から遠ざかって
君はいつもとなりにいると信じてた
決められた時間の中
それはみんな同じで
モノクロの世界をただ
彷徨い続けているだけなのか
一歩踏み出して変えていくのか
取り残された私は今
煌めく未来を夢みて瞼開いた
星屑のような光を
手のひらに放ち 空を見上げてみる
あの日の僕らが手を振って
羽根を広げ笑い合ってる
未完成だった曲の続きを、歌い上げる。あれから歌詞を書き足して、宮凪くんのメロディに声を乗せた。
こうして河原を訪れた際、宮凪くんに聞いてもらっている。少しずつだけど、自分の声も悪くないと思えるようになったの。
日が暮れて、夜が訪れようとしている。河原が暗闇に変わる瞬間──逢魔時。
ぽわんと青い光が現れて、私の目の前で動きを止める。人差し指でチョンと触れると、光が大きくなって人の形になった。
「蛍、久しぶり。また来てくれたんだ」
キラキラと輝く宮凪くんが、静かに微笑む。半透明の体は、川の向こう側をも映している。
「一年ぶりだね。またこの季節がやって来ました」
「髪、けっこうバッサリ切ったな」
「やっぱり、変かな? 前の方がよかったかもって、ちょっと後悔してて」
「どっちも似合ってるよ」
ほんとかなぁと、イタズラに突っ込んでみる。
「俺、嘘ついたことないだろ?」
「あっ、今嘘ついた。宮凪くん、嘘ばっかりなんだもん」
「蛍だって人のこと言えねぇよ?」
たしかにと吹き出し、目が合ってクスクスと笑い合う。
「それにしても、【モノクロームと恋蛍】いい歌だよなぁ〜。俺、音楽の才能あるかな」
「誰も知らないから、秘密だけどね」
「二人だけの歌。その方が特別感あっていい」
うんうんと頷きながら、青い光を見つめる。
「手紙も持って来たから、あとで読んでね。また、来年も聴いてね」
「蛍が歌ってくれるなら。ずっと、待ってる」
小さく手を振って、胸の前でキュッとこぶしを握る。辺りが闇へと包まれていく中、涙がこぼれないよう必死に堪えて。
「バイバイ。絶対、また会いに来るから。一年後で、待っててね」
何度目かの別れを告げた。
一年に一度、宮凪くんから手紙が送られてくる。何年分書いてくれたのだろう。そのメッセージに、私は返事を書く。
きっと、大人になってからも、文字を通して、歌を通じて話ができると信じている。
──知ってる? 人って、一度離れても、ほんとに運命で繋がってる人って、また出会えるんだって。
月明かりに照らされた川へ宮凪くん宛の手紙を流すと、しばらくしてきらきらと水面が輝き始めた。
約束の蛍が、空へ舞い上がっていく。
私たちの想いを、光りに乗せて。
完