高校二年生になって数週間が経ち、宮凪くんと出会った季節がやって来た。
 たまに河原を訪れては、感傷に浸ることもある。
 あの時に書いた手紙を読み返して、弱っている時は泣いてしまうことも。

 それでも前を向いて歩かなければと、己を奮い立たせている。宮凪くんとの時間は止まったままだけど、私の時計は進んでいく。

 引き出しにしまっていた封筒を持って、夜の河原へ出向いた。春の風が心地よくて、気持ちがいい。
 薄暗い川へと近くと、びしょ濡れになったあの時を、昨日のことのように思い出す。

 そっと水に触れて、宮凪くんへの想いが詰まった手紙を流した。
 ずっと伝えられなかった気持ちが、どうか届きますように。


 一週間後の夕方。いつも通り学校から帰宅すると、母から一枚の封筒を渡された。ポストに入っていたと言われたけど、差出人の記載はない。
 消印は二日前で、普通の手紙のようだけど誰だろう。

 なんとなく宛名書きを見て、胸がざわつく。このキレイな字に、見覚えがあった。
 そんなわけがない。でも、絶対にそうだ。心の中で繰り返しながら、封を開けた。


 春原蛍さま

 お元気ですか?
 あらたまって書くのは初めてだから、少し照れくさいです。
 もしもの時のために、文字で残しておくことにしました。

 ナイトアウアリウム、行けなくてごめん。
 一緒に高校卒業できなくてごめん。
 同じ大学、行けなくてごめん。
 蛍を見る約束、守れなくてごめん。
 嘘だらけで、ごめん。
 謝ることだらけだったら、ごめんなさい。

 俺は生き続けるつもりだから、この手紙はなかったことになるかもしれない。
 それならその方がいいんだけどな。
 今となりにいるじゃんって、二人で笑って見てるってのが希望かな。全部、願い叶ってるじゃんって。

 未来の俺、ちゃんと告白したか?
 蛍は初恋の子で、今でも特別な人だって伝えたか?
 後悔する前に、しっかり手を握っておけよ。

 奇跡って、起きるんだよ。俺が証明する。
 もしも神様がいなかったとしても、俺は蛍と出会えて幸せだった。ありがとう。

 蛍、これからも一緒に頑張ろうな。


                宮凪海