「春原さん、すごかった! 今日のヒーローじゃん!」
「いきなりよく歌えたね。あんなん無理だわ。真似できん」

 熱気が冷めやらぬままの帰り道、クラスメイトたちが褒めてくれて、照れ臭くなる。
 自分でも、本番でソロパートを歌ったことが、まだ信じられない。

「急に声出なくなって、終わったと思った。春原さん、ほんとにありがとう」

 眞柴さんからもお礼を言われて、あわてて首を横に振る。

「みんなと歌えて、よかったです。今日、参加できて、ほんとに嬉しい」
「うんうん、このクラス最高だよ! 先生は感動している!」
「ヤダァ〜、みうらっち泣いてるのー? こっちまでもらい泣きしちゃうから!」

 いつの間にか、クラスの子たちに囲まれて、私は輪の中心を歩いていた。その姿を見た真木さんが、「やるじゃん」と口を動かす。
 緊張の糸が解けてホッとしたのか、ポロポロと涙があふれてきた。みんなの目も真っ赤で、それだけ一生懸命だったのだと知る。
 やっとクラスの一員になれた気がして、胸がいっぱいになった。


 放課後は公園へ寄らなくなり、たまに真木さんの家でのカラオケに参加している。他の子たちみたく歌えはしないけど、小さな声でデュエットができるようになった。

「春原さん、貸してもらってた本持って来たよ〜! 読むのに時間かかっちゃったけど、面白いね」

 フミちゃんこと馬渕さんが、本カバーをつけた小説を顔の前に出す。

「続きあるけど、読むかな?」
「えー、いいの? 気になってたんだよね。ありがとう〜!」

 実は最近、物語に興味があると教えてくれて、おススメの小説を紹介した。たくさんではないけれど、クラスメイトの子たちと、少しずつ交流が増えている。

「よくそんな大量の字読もうと思えるよね。わかんないや」

 沢井さんは相変わらず、思ったことを言っているけど。

「フミちゃん、春原さん。本もいいけど、この映画見てみな? ガチ感動するから。これユウミの今年イチ!」

 SNSに載っている映画のページを開いて、私たちに見せる。馬渕さんの横で、控えめに覗き込みながら同じようにうなずいた。

 余命系の話らしく、原作は小説のようだ。
 今度、休みの日に見てみようかな。ついでに、小説の方も本屋さんで探してみよう。好きな映画の小説だったら、沢井さんも本に興味を持ってくれるかもしれない。

 私の考えていることがお見通しだったのか、そばにいた真木さんがうんうんと笑みを浮かべる。それだけで、自信が湧いてくる気がした。