真木さんと学校で話すようになって、他の人たちとも少しながら交流が生まれた。ミニコンサートで奇跡を起こしたと思っていたけど、現実を突きつけられて自信は消失している。
宮凪くんは、もういない。
──人って、一度離れても、ほんとに運命で繋がってる人って、また出会えるんだって。
願った神様は、──いなかった。
私なんかいない方が、合唱コンクールは上手くいく。
そのとき、スマホが鳴った。テロップで出てきたのは、SNSの投稿通知だ。
そんなはずはない。止まりそうな心臓音を抑えながら、そっとタップする。
《合唱コンクール みんなガンバレ! 天王も星薇もガンバレ! 俺もガンバレ!》
あふれる涙で、文字が見えなくなっていく。
「……宮凪くん……なんで……?」
うずくまる体を、ハッと起き上げた。
そうか、予約投稿だ。きっと、宮凪くんは忘れないように、事前に書いていたんだ。
《ほたる ガンバレ》
ピコンと更新された文字に、また目の前がにじみ出す。
どうして、私の名前が……。
まさか、私が合唱コンクールに出ること、宮凪くんは気づいて……?
公園のブランコ、砂に文字を書いた文字や、病院の屋上で一緒に花火を見た横顔。いろんな場面の宮凪くんを思い出す。
涙まみれの顔をこすりながら、ベッドから飛び降りた。姿見の前に立って、一度、深呼吸をする。
「……ほたる、ガンバレ」
急いで支度をして、お母さんの車へ乗り込む。
集合時間より少し遅れて会場へ到着したけど、三浦先生は「よく来た!」と迎えてくれた。
クラスメイトは、どちらでもいい雰囲気を醸し出しながら、友達同士で話している。
その空気に、ようやく持てた勇気が霞みそうになったけど、気づいた真木さんが手を振ってガッツポーズを送ってくれた。
それだけで、私の弱気になりそうな心は救われた気がする。
この地域周辺にある、五つの高等学校が参加する合唱コンクールが始まった。トップバッターの私たちは、みんな緊張しているように見える。思いのほか、会場が広くて客席は近い。
壇上へ上がったとき、私の前の子が段につまづいて転んでしまった。驚いた私は動きを止めて、すぐ後ろの子に当たった。「もうっ」と苛立ちのため息が聞こえる。恥ずかしそうにしながら私の前を歩く子からは、心臓の鼓動が聞こえているのでは、というほど緊張感が伝わってきた。
そのこともあって、一気に場の空気がこわばったのだ。
声が出ないかもしれない。
ピアノの伴奏が始まり、みんなが緩やかに歌い出す。
僕らは旅の途中
昨日の出会いを胸に
輝く明日へ 駆け出そう
今この瞬間
小さな声を出しながら、体が恐縮する。会場みんなが、今、私たちに注目していると考えたら、恥ずかしくて怖くなった。
やっぱり私は、昔の自分から抜け出せない。変われない。
場の重圧に押しつぶされそうで、視線を動かす。その先で、目を奪われた。指揮者の斜め後ろに、いたの。
宮凪くんが──。
宮凪くんは、もういない。
──人って、一度離れても、ほんとに運命で繋がってる人って、また出会えるんだって。
願った神様は、──いなかった。
私なんかいない方が、合唱コンクールは上手くいく。
そのとき、スマホが鳴った。テロップで出てきたのは、SNSの投稿通知だ。
そんなはずはない。止まりそうな心臓音を抑えながら、そっとタップする。
《合唱コンクール みんなガンバレ! 天王も星薇もガンバレ! 俺もガンバレ!》
あふれる涙で、文字が見えなくなっていく。
「……宮凪くん……なんで……?」
うずくまる体を、ハッと起き上げた。
そうか、予約投稿だ。きっと、宮凪くんは忘れないように、事前に書いていたんだ。
《ほたる ガンバレ》
ピコンと更新された文字に、また目の前がにじみ出す。
どうして、私の名前が……。
まさか、私が合唱コンクールに出ること、宮凪くんは気づいて……?
公園のブランコ、砂に文字を書いた文字や、病院の屋上で一緒に花火を見た横顔。いろんな場面の宮凪くんを思い出す。
涙まみれの顔をこすりながら、ベッドから飛び降りた。姿見の前に立って、一度、深呼吸をする。
「……ほたる、ガンバレ」
急いで支度をして、お母さんの車へ乗り込む。
集合時間より少し遅れて会場へ到着したけど、三浦先生は「よく来た!」と迎えてくれた。
クラスメイトは、どちらでもいい雰囲気を醸し出しながら、友達同士で話している。
その空気に、ようやく持てた勇気が霞みそうになったけど、気づいた真木さんが手を振ってガッツポーズを送ってくれた。
それだけで、私の弱気になりそうな心は救われた気がする。
この地域周辺にある、五つの高等学校が参加する合唱コンクールが始まった。トップバッターの私たちは、みんな緊張しているように見える。思いのほか、会場が広くて客席は近い。
壇上へ上がったとき、私の前の子が段につまづいて転んでしまった。驚いた私は動きを止めて、すぐ後ろの子に当たった。「もうっ」と苛立ちのため息が聞こえる。恥ずかしそうにしながら私の前を歩く子からは、心臓の鼓動が聞こえているのでは、というほど緊張感が伝わってきた。
そのこともあって、一気に場の空気がこわばったのだ。
声が出ないかもしれない。
ピアノの伴奏が始まり、みんなが緩やかに歌い出す。
僕らは旅の途中
昨日の出会いを胸に
輝く明日へ 駆け出そう
今この瞬間
小さな声を出しながら、体が恐縮する。会場みんなが、今、私たちに注目していると考えたら、恥ずかしくて怖くなった。
やっぱり私は、昔の自分から抜け出せない。変われない。
場の重圧に押しつぶされそうで、視線を動かす。その先で、目を奪われた。指揮者の斜め後ろに、いたの。
宮凪くんが──。