連絡が来たのは、ちょうど髪を乾かしている最中だった。夏休みも残りわずかという日で、少し気鬱になりかけの時。
 スマホに表示された『宮凪空』という名前を見ただけで、背筋が凍るような嫌な感じがして。

 半乾きのままで駆けつけた頃には、宮凪くんは心臓マッサージを受けていた。ピーッと鳴り響く機械音は、テレビドラマの中でしか聞いたことのない音で現実味がない。


「……みや……宮凪くん」

 呼びかけても反応はない。ピクリと動いた指を、付き添っている空さんがそっと握る。
 そのうちに、先生がゆっくりと手を止めて、呼吸器を外した。白い布が被せられた状況に、がくんと足が崩れ落ちる。震えが止まらなくて、とても立てる状態ではなかった。

 青い宝石は身体中を蝕んでいて、まるで人形のように見える。触れた肌は、まだほんのりと温かい。

「この子、春原さんが来るまで、ずっと頑張ってたんだよ。約束したから、死ねねぇって。もう一回、会いたいって……」

 母親に寄り添いながら、空さんが泣き崩れた。
 どれだけ強く掴んでも、優しくて大きな手は、もう握り返してはくれない。少しずつ冷えていく指に、私は顔をうずめた。

 宮凪くん……宮凪くん。どうして?
 こんなに早すぎる別れが来るなんて、思いもしなかった。
 ぽたぽたとこぼれ落ちる涙が、ぐっと握りしめている拳を弾いていく。なにか、持っている。そっと指を広げると、お土産のお守りが出てきた。

「……やだ、やだやだ。嘘って言ってよ。一緒に、行くって、言ったじゃない。水族館も……蛍も……見ようって……約束……したのに。宮凪くん……返事、してよ」


 宮凪くんは、私に嘘をついていた。
 蛍病は、世界でたった五百症例ほどしかない細胞の病で、詳しい原因は解明されていない。進行が止まり元気になる人は稀で、発症者のほとんどが成人するまでに命を落としているらしい。

 ただ、それが突発的に現れるため、近付くまで分からないケースが多い。急変したら、そのまま逝ってしまう可能性が高いのに、宮凪くんは一度目を開いたらしい。

 ミニチュアアクアリウムの紙コップに手を伸ばしながら、何度も私の名前を呼んで、最後に笑った。そう空さんが教えてくれた。