ゼロかイチか程度の声を出して、合唱の練習を終えた。私にはハードルが高すぎて、天井を突き破るのは無理だった。

「みうらっち、気合い入ってるよねー」
「代表に選ばれなかったら、発狂するんじゃない?」
「でもさ、さっすがフミちゃんだよ! さっきのソロパートすごかった」
「クラスに合唱部が三人もいるって、なんか得した気分だよねー」

 後ろの席でキャッキャッと盛り上がっているのは、陽気な女子代表とも言える沢井(さわい)さんとその仲良しの二人だ。
 黙っているけど、真木さんもいる。女子たちの微妙な声のトーンで、誰と話しているかわかってしまうのだ。

「アレはないわー」と言いながら、小さく内緒話をしてクスクスしている。私のことじゃないかもしれないけど、笑われている気がして落ち着かない。
 逃げるように、私は教室を出た。あの時と同じことを繰り返している。小学生から、何も変わっていない。

 ルーズリーフの切れ端を握りしめながら、公園の海賊船へ入り込む。


 染み込んだ毒が チクチクと広がっていく
 どうして? ひとりごと?
 すべてから逃げ出して なくしてしまえたら楽なのに
 それすらに臆病で なにもできないわたし
 いらない 聞きたくない 塞ぎたい
 赤い涙を流しては いつも心で叫ぶ
 もう少しだけ もう少しだけ踏ん張ってみよう
 ダメなら 全部捨ててしまえばいい
 だから 自分を嫌いにならないで
 まだ わたしはわたしの味方でいてあげよう


 こうして心の中身を書き出すことで、少しだけ救われる気がする。もうここへ貼ることは、できなくなってしまったけれど。
 メモ用紙から、もう一枚の紙を取り出した。
放課後、誰もいなくなった教室でこっそり書いたメッセージを眺める。気が乗らないな。

『キライな自分。どうしたら変われるかな?』

 貼りかけた手を戻して、リュックのポケットへ押し込んだ。
 こんな暗い話をしたら、困らせるかもしれない。
 ウミちゃんが宮凪くんという男子だと知ってから、さらけ出した話をしづらくなった。顔も知らない。会ったことのない時の方が、踏み込んだ質問ができていた気がする。

『今日も勇気が出せませんでした』『私の声って、変わってるかな?』
 書いてはくしゃけてを繰り返して、頭を抱える。もっと明るい話題にしないと、楽しくないと思われるかもしれない。

『今日は合唱の練習をしました。ウミちゃんは、歌が好きですか?』

 当たり障りのないことを書いて、公園を去った。
 自分がとてもつまらない人間に思えて、急に恥ずかしくなった。もう返信をもらえないのではと不安になって、それならそれでいいじゃないと開き直る心の住人が出てきて、ため息ばかりが増えていく。