暗い空の下で、青く光る手をそっと掬う。心なしか、骨張った指が震えている。

「もう、なってるよ。宮凪くんと蛍は、もう立派な友達だよ」

 最初は驚いていた宮凪くんが、ぐっと指を絡めて来た。
 強く握られた手の甲に、ぽたりと温かい雫が落ちてくる。何粒も、重なって。


《昔、俺たちを救ってくれた人がいたんだ》

《顔はもうわかんないけど 言われたことだけずっと覚えてる》

《蛍だったんだな》


 噛み締めるように、ゆっくりうなずくと、ふいに引き寄せられた。宮凪くんの胸に抱かれたまま動けない。
 トクトクと鼓動の音だけが聞こえて、生きている証が広がっていく。
 これほど安心する音は、もう一生聞けない気がした。

「治ったら……高校卒業して、一緒に、大学……行こう。そしたら……文芸サークル、入って、図書館生活も、悪くないな。そしたら、もっと、一緒にいれる……だろ」

 耳元でやっと理解できるほどの声に、胸の奥がギュッと狭くなる。前とは、かけ離れて違うけど、間違いなく宮凪くんの声だ。

「もう、話さないで。ほんとに、出なくなっちゃう」

 どうかこの温もりが消えないでと、背中に添えた手に力を入れる。

「ナイト、アクアリウム……今度は、ちゃんと、予約するし。本物の、蛍も……見よう」
「……うん」
「約束、たくさん、あった方が、頑張れる……気がする」
「……うん」

 差し出される小指に、そっと体を離す。
 絡め合う指先は、熱を帯びた宝石のように美しくて温かい。
 見上げたとたん、濡れた頬に優しいキスが落ちてきた。
 その瞬間に、夜空はパッと明るくなって、大きな音が鳴り響く。何度も光りながら、たくさんの花火が打ち上がっている。


「……約束。ぜったいだよ」


 指切りをした手は、そっと離れた。


 私は、嘘をついた。
 立派な友達だと口にしたけど、ほんとうは違う。それ以上の感情を持ち合わせて、宮凪くんに恋をしている。
 本心を言わないのは、願掛けでもあった。一緒に高校卒業したら、告白しようって。