吹奏楽部の演奏で歌を披露してから、八日目のこと。たまに掠れていた宮凪くんの声は、ほとんど聞こえなくなっていた。
 風邪を引いたときになる、空気が漏れているような声と似ている。聞いていて、痛々しくなるほどだ。
 病室の窓から外を眺めていると、トントンと肩をつかれる。

《ホタル なに見てるの?》

 ノートにつづられた文字に、キュッと胸の奥が締め付けられた。

「小鳥がね、また木に止まってるの。あまり見たことない鳥だったから、気になって」

 平然を保って、視線を外へ向ける。悲しいと、顔に出したらいけない。一番つらい思いをしているのは、宮凪くんだから。

《どこ?》

 近くなって、肩がぶつかった。すぐとなりにいるのに、声は聞こえない。

「ちょっと青っぽい……あの鳥。キレイな色だよね」

 指をさしたところを見て、見つけたのか宮凪くんもうなずいている。

《幸福の鳥?》

 いつもと変わらない笑顔があって、私は押し寄せてくる涙をグッとこらえた。

「うん、そうだよ。絶対そう! お見舞いに来てくれたんだね、きっと」

 クスッと笑って、宮凪くんが前へ向き直る。その表情がどこか寂しそうで、何も言えなくなった。

 曲作りも、途中で止まっている。この状況では、やらない方がいい。口にしなくても、お互いに分かる。これ以上、悪化させないために、安静に。
 宮凪くんは平然を装っているけど、ショックは大きいはずだ。私でさえ、これほどに苦しくて、息が詰まりそうだから。

 些細な感情が、不安が、にじみでて伝わっていませんように。ひたすらに隠し続けるしか、今の私にできることはなかった。