「あと、今日はまだやりたいことがあります」

 ベッド傍の下に置いてあった荷物を取り出す。両手に持った紙袋を見て、宮凪くんが首を傾げた。また何か企んでいると思われたのか、ベッドの横に置いたすぐに、中身を確認している。
 もうひとつの紙袋から、私はハサミやテープ、セロハンを取り出した。

「蛍、図工の授業でもするの?」

 今度は反対に首を傾けて、宮凪くんはそれらをじっと見ている。

「大正解。今から、工作をしたいと思います」

 頬の横で小さなライトと紙コップを持ちながら、はいと差し出した。
 病室のベッドの机。二人で肩を寄せ合って、スマホ画面を覗き込む。作り方の動画に沿って、宮凪くんが黒の画用紙を扇形に切る。それぞれが魚やイカ、クラゲなどの絵を描いて、カッターで綺麗に切り抜いていく。

「蛍せんせーい、こんな感じでいいの?」
「あっ、うん。すごく素敵! カワイイです」

 できた穴に青や赤、紫などのセロハンを貼り付けて、切った画用紙を紙コップへ被せた。

「完成!」

 可愛らしい創作カップが二つできた。

「これなに? 糸電話?」

 くるくると回しながら、宮凪くんが飾りつけしたコップの中を覗く。
 自分の持っているコップへライトを入れて、私はスイッチを入れた。

「こうすると、ジャン! なんちゃってアクアリウムになるの」

 まだ明るい部屋でも、カラフルな光りが少し浮かび上がるのがわかる。
 すげーと言いながら、宮凪くんがコップの中に目を当てた。

「小学校思い出した」
「図工の時間?」
「そう。中学と高校は休むこと多かったし。懐かしいなー」

 思いの外、楽しそうにはしゃいでくれてホッとする。少しでも学校の気分を味わってもらえればと思って、準備してきてよかった。


「ゴホッ──ゴホゴホッ」

 咳き込む宮凪くんの背中をさすって、冷蔵庫のミネラルウォーターを差し出す。ゴクリと喉を通っていくと、ほんのりと青い光が首筋に浮かび上がった。

 以前は表面だけで、体内の水分は関係ないと聞いていた。どうやら、今は違うらしい。そこまで強い光でなく、しばらくしたら消えたけれど、病状はあまりよくないのかもしれない。