ミニコンサートが成功してから、宮凪くんと普通に会えるようになった。と言っても、退院できたわけではなく、お見舞いへ来ているという意味だ。
 肌の光りが消える時間は、前よりずっと遅い。何時間もそのままで、その日の体調によっては半日以上続くこともある。

「ゴホッ、ゴホッ──」

「大丈夫? 水飲む?」
「ありがと。平気」

 ペットボトルの中でうごめく水と、リズムよく動く喉仏を交互に見つめた。
 あれから、蛍病についてずっと考えている。少しでも喉に良いものを調べたり、なるべく負担をかけない声の出し方を伝えたり。
 無意味かもしれないけれど、やらないで後悔するよりはマシかなって。

 病室のシーツの上に広げられたノートとペン。横には、音楽アプリを開いたままのスマホが転がっている。

「この部分、どう思う? 下げるか上げるか迷ってんだ」

 ひとつのイヤホンを片耳ずつつけて、私たちは身を寄せた。自然と肩が触れ合って、心臓の音が速くなる。
 耳元で、緩やかなテンポのバラードが流れて、心の中に充満していく。優しい気持ちにさせてくれる曲調だ。

「うーん、そうだね。私は、高くなる方が好みかな。ここから、感情が盛り上がるってイメージかな」
「こんな感じ?」

 さっきよりよくなったメロディに、うんうんとうなずく。
 あまりに近く目が触れ合って、思わず顔を下げた。やっぱり、この距離感に慣れない。


「オッケー、決まり。じゃあ、今日はここまで」

 イヤホンを取って、宮凪くんがケースへと片付けた。喉の調子を気にして、なるべく作曲作業を長くしないようにしている。
 本当は一日中でもしていたい。顔にはそう書いてあるけど、声を守るために我慢も大切だと宮凪くんが言う。そんな彼を、そばで、ずっと支えていきたい。