病室へ戻ってきて、宮凪くんがゆっくりとベッドへ腰を下ろす。机の上に、この前置いていった紙袋が畳まれてあった。その隣に〝好きだと春は冬に告げる〟の続刊と、一緒にいれておいたお守りのキーホルダーが飾られている。

 それから、本に挟んでおいたメモ用紙も、きちんと隣に並んでいた。捨てられていなかった。少なくとも、迷惑ではなかったのだと気付いたとたん、また胸の奥が熱くなった。

「あのサプライズはヤバかった。まだ心臓バクバクしてる」
「ご、ごめんね……。歌ってもらう予定は、なかったんだけど」

 困らせてしまったかな。マイナスな気持ちが押し寄せて、一気に不安になる。

「……蛍が、みんなに声かけたのか?」
「う、うん。真木さんの力が大きかったけどね。あっ、真木さんって、さっきマイク渡した子! 前に相談した、明るくて誰とでも仲良くなれるクラスの子なんだけど」
「すげぇじゃん! 蛍、ちゃんと話せたんだ」

 花が咲いたみたいに、宮凪くんの表情がパッと明るくなる。久しぶりに見た笑顔に、目が潤み出す。
 鼻をずびっとすするのは、不安と緊張の糸が(ほど)ける音だ。

「ぜんぶ、宮凪くんのおかげだよ」
「蛍が頑張った結果だろ。あんなすげぇ音楽とステージで歌えるとか、夢にも思わなかった」

 余韻をかみしめるように、宮凪くんの瞳がキラキラしている。私のしてきたことは、間違いじゃなかったんだと、あらためて確信できた。

「宮凪くんが、勇気をくれたんだよ。そしたら、こんなにも素敵なものが出来上がって、私も自信がついた」

 涙がこぼれ落ちても目を見開いて、まっすぐと宮凪くんを見つめる。
 もう背けたくない。逃げたくない。怯えてばかりの私は、卒業したの。