ピアノの優しい音に乗って、フルートやバイオリンが切なさを足していく。これは以前、宮凪くんが口づさんでいた曲。協力してくれる吹奏楽部のみんなにお願いして、なんとか実現できた。
 とても切ないメロディーは、胸をギュッと締めつけるのに包み込んでくれる。不思議な感情におどらされる。

 背を向けているから、宮凪くんの表情はわからない。けれど、玄関ホールに響き渡るこの音は、寂しくてあたたかい。

 二番に入ったとき、小さな声が聴こえた。遠慮がちだった歌声は、マイク越しにだんだん大きくなっていく。
 背中の向こうの声の主は、宮凪くんだ。きっと、誰かにマイクを渡されたのだろう。高くて綺麗な歌声が、壮大な演奏と重なる。
 こんなにも胸が苦しくて、心に沁みる歌を初めて聞いた。

 間違いなく、今、この瞬間、私たちの思いはひとつになっている。

 演奏が終わり、大きな拍手が湧き起こった。深いお辞儀の頭を上げると、宮凪くんと目が合った。

「私たちからの贈り物です。届き……ましたか?」

 見つめ合ったまま、私は口を開く。
 拍手の音がさらに増して、小さくなって消えた。
 宮凪くんの瞳から、一粒の雫がこぼれ落ちる。つられるように、私も涙があふれてきた。

「……なんだよ、これ。聞いてねぇし、音楽すげぇし、頭の整理つかねぇし」

 掠れた声を振るわせながら、宮凪くんが目を擦る。こんな姿を見るのは初めてで、私もボロボロと泣いた。

 嫌われるのが怖いから。拒絶されたから終わりだ。そんな臆病な自分に負けないで、信じて進んでよかった。宮凪くんに希望をみてほしい一心で、勇気を出して頑張ってみてよかった。

 マイクを受け取った真木さんが、「あとはうちらに任せて」と、私たちを二人にしてくれた。