急に話しかけられて、驚いた拍子に手からするりと鶴が落ちた。
 慌てて拾いながらベッドを見ると、宮凪くんが目をきょとんとさせている。まるで、この世のものではない物を見たという感じで。

「ごめんなさい。うるさくしちゃったかな」

 フックへかけて、鶴の形を整えた。鮮やかな色が白い病室に映えてキレイだけど、この上なく指先は震えている。

「……それ」
「みんなからだよ。宮凪くんのことを応援してる、いろんな人から」

 黙り込む宮凪くんに、ごくりと喉が鳴る。それから背中にひやりとした空気が通って、手汗が滲み出した。
 余計なことをして、と思われたかな。気分を悪くしてしまったかも。一気に押し寄せる負の思考を、ぐっと押し止める。

「それと、来てほしいところがあるの」
「……どこへ?」

「ちゃんと、竹田(たけだ)先生の許可は取ってあるよ」

 病室へ入ってきた空さんを見て、宮凪くんは口をあんぐりと開けた。

「姉ちゃん? どういうことだよ」
「行けばわかる」

 点滴をつるしたスタンドを引いて、エレベーターに乗る。黙ったままの宮凪くんは、どこか不貞腐(ふてくさ)れているように見えた。
怒っているのかな。
 不安な気持ちで一階へ降りる。玄関ロビーには、手作りの看板とたくさんの折り紙が飾られている。


「……ミニ……コンサート?」

 中央のスペースにはピアノがあって、聖薇(せいら)女学院高等学校の吹奏楽部の子たちが楽器を持って座っていた。

「ようこそ、コンサート会場へ」

 まだ状況を把握しきれていない宮凪くんを、目の前の椅子へ誘導する。
 他の患者さんや看護師さんたちも、見に来てくれた。

「みんなで、一生懸命準備したので、聴いてください」

 私の合図で、演奏が始まった。指揮なんて、小学校の合唱でしかしたことはなかった。ましてや、楽器の指揮は初めて。
 真木さんの家へ集まって、今日まで何度も練習した。私のせいで、タイミングがずれてしまうこともいっぱいあって、当たり前だけど簡単じゃない。

 でも、どうしても、宮凪くんに届けたかった。私の手で、勇気と想いを。