いつだって、聖薇女学院という名だけで偏見を持たれてきた。近所の人からは、「蛍ちゃんって、ほんとは優秀だったのね。親孝行だわぁ」と嫌味を言われ、すれ違ったおじさんには、つま先から頭までじろりと見定められる。

「よく行ってるよな、あんな息苦しそうなとこ。規則とか厳しそうだし、学校サボりたくなんない?」

 表向きばかり見られて、誰にも理解してもらえないと思っていたのに。私じゃなくて、学校を否定されたのは初めて。それが嬉しくて、胸の奥から感情があふれ出てくる。

「……楽しくない」

 思わずこぼれた声に、自分自身が驚いている。知らない男の子を相手に、よく話せたなって。
 ぐっと足のつま先に力を入れると、合っている切長の目がふっと緩んだ。

「うん、なんかそんな顔してた。たまには、友達と息抜きしなよ」

 じゃな、と背を向けて去って行く。
 見かけによらず、いい人そうだったな。あっ、お礼を言いそびれてしまった。そんなことを考えていると、一分も経たないうちに戻って来た。

 えっ、なに?
 見ていないふりをして立ち去ろうとするけど、視線が奪われる。海賊船の中から、何かを持ち出してきたから。たぶん、あれは私が今朝貼ったウミちゃんへの手紙。


「あ、あの」

 人は窮地に立たされると、底知れずの勇気が出るらしい。あと先何も考えず、気付いたら呼び止めていた。

「そ、その手紙、私のなので……」

 返してほしい。そこまで来て、肝心なところで力尽きる。情け無い。言葉に詰まる私と手元の紙とを交互に見て、彼がぽつり。

「……えっ、ホタル?」

 この人は、どうして私の名前を知っているんだろう。
 いちにと瞬きする間に、再び入った海賊船から戻って来て、ぽかんと立つ私へ何かを差し出した。

「俺だよ、ウミ。まあ、ほんとの名前じゃねぇけど」

 そう笑う彼の手にあるのは、返事の書かれた紙だった。
 字も綺麗で大人びて感じていたから、てっきり女の子だと思っていた。嘘……でしょ?
 この人が、ずっと手紙交換をしていた〝ウミちゃん〟だったなんて。


『よかったら今度、会って話さない?』


 受け取ったメッセージから、しばらく視線を上げられなかった。