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「先日は、ありがとうございました。迷惑かけちゃうことは、重々承知なんですが、ほんとに、どんなことでもいいので……お願いします」

 昼休み、廊下の隅っこに隠れて、私は切実に頭を下げる。助けてもらったお礼に、紅茶に合うクッキーの詰め合わせを渡したのと、図々しくも頼みごとを持ってきた。
 頭ひとつ分高い真木さんが、少し背を縮めて慌てた声を出す。しきりに周りを気にしながら。

「わかったから、とりあえず頭上げよ? 詳しい話はそれからね」

 体育館へ移動して、ステージ裏へ身を潜める。コートでは数人の男子がバスケをしていたけど、私たちのことはあまり気にしていない様子だった。
 ボールの響く音があるから、静か過ぎるより話しやすい。

 宮凪くんと出会った経緯や、不良高校生から逃れたことを、拙い言葉ながら話した。突然いなくなって、戸惑っていることも。
 ただ、蛍病のことは黙っていた。私が勝手に口にすることではないと、判断したから。

「……で、どんな些細なことでもいいから、情報収集を手伝ってほしいと」
「は、恥を偲んで、お願いしてます。頼れる人が、真木さんしかいなくて」
「春原さんはおおげさだなぁ。まっ、できる限り協力はするけどね」

 ちらりと白い歯が見えて、ホッと胸を撫で下ろす。困らせたり、迷惑に思われたらと、頭に過らなかったわけじゃない。
 それでも、まずは話してみなければ何も始まらない。


 ──勇気出して、頑張った奴だけが言えることだけどな。まだ頑張れてねぇじゃん。蛍も、俺も。

 ──人って、一度離れても、ほんとに運命で繋がってる人って、また出会えるんだって。


 宮凪くんが、真木さんが、教えてくれたから。

「あ、ありがとうございます!」

 少しだけ、いつもより弾んだ声が出て、ステージ上に反響した。
 赤面して顔を上げられない私に、真木さんの落ち着いた声が降ってくる。

「好きなんだね。その人のこと」

 それは問いかけというより、確認のように聞こえた。優しく見守る眼差しに、深くうなずいて。

「……はい」

 迷うことなく、私ははっきりと言い切った。