「あっ、ごめんなさい。私、困らせるようなことを……」

 慌ててティーカップの中身を飲み干し、濡れた頬を拭う。
 まともに会話もしたことがない人間に、こんな人生相談をされても迷惑なだけだ。きっと、真木さんも面倒な奴だって……。

「詳しい事情はわかんないけど、友達って簡単じゃないんだよ。仲良く見えて、裏ではひっどいこと思ってる人もいるし」

 ため息混じりに頰杖をついて、真木さんが口を開く。

「本心は違っても、不器用なだけで誤解されたりとかね」

 表情をコロコロと変えながら、フッと笑みを浮かべる。
 いつもまわりにはたくさんの人がいて、みんなから好かれている印象しかなかった。想像がつかない。

「真木さんでも……、友達って、難しいの?」
「よく悩むよー? ああ、今の触れない方がよかったかも。さっきの発言で拗ねたな。この子にこの話はしない方がいいな、とかね」

 真木さんみたいに明るくて、なんでも器用にこなせる人でも、人一倍に気を遣って生きているんだ。
 スーパーマンみたいな人は、見えないところでいろんなことを考えている。だから、人から頼りにされて好かれるんだ。

「言い合いになるときもあるけど、一緒にいて楽しいし、好きだし、困ってたら助けたいって思う。それが、わたしの中の友達って存在。まあ、人によって価値観は違うから、それはわたしの正解であって、春原さんには不正解なんだけどね」

 私の正解……、宮凪くんの正解は、どんなものなんだろう。
 手を握られたかと思ったら、するりと離して消えてしまう。どれが本心なのか、知るのは宮凪くんの心だけ。

 黙って考え込んでいたら、真木さんが顔の前で手を振りながら。

「要するに、わたしが言いたいのは、一回や二回のすれ違いで落ち込むなってこと! 春原さんだってあるでしょ? 気持ちと行動がリンクしないとき」

「……あります。ほんとは、違うのにって」

 手を擦り合わせながら、俯向き加減になってく。
 歌が好きだって偽ったのも、合宿コンクールのことも、自分に自信がないから本当のことを言えなかった。

「知ってる? 人って、一度離れても、ほんとに運命で繋がってる人って、また出会えるんだって。ばあちゃんが言ってた」

 パッと顔を上げると、嘘偽りのない笑みを浮かべた真木さんがいる。
 今の私にとって、魔法みたいな言葉だ。どん底まで落ちていた私に、手を差し伸べて、引き上げてくれるような感覚。


「今日の巡り合いも、必然だったのかもね」

 恥ずかしげもなく、口説き文句にも似た台詞が飛んできて、私は思わず赤面する。黙ったまま小さくコクリと頷くと、真木さんは満足そうに目を三日月にした。