緑と茶色のチェック柄の傘の中。見上げた先にいたのは、短めの髪をさらりと落とす真木さんだった。首を傾げながら、泥だらけの私を不思議そうに見ている。
 予想外の登場人物に驚きながらも、恥ずかしくなって顔を隠す。こんな惨めな姿のときに、会いたくなかった。

「なんかワケアリって感じ? うち、こっから近いからおいでよ」
「……え」

「ここ、わたしが通ってた小学校」

 そろりと顔を向けると、真木さんが白い歯をニッと見せた。

 学校から徒歩数分ほど、大きな一軒家の前で足を止める。どうやら、本当に真木さんの家らしい。出迎えた門構えも立派だったけど、玄関も我が家より倍広い。

「ちょっと待ってね。先に、シャワー浴びちゃいなよ」
「えっ」

 当たり前のようにタオルを持ってきて、一枚は私へ渡し、もう片方は足元へ引いた。

「ああ、大丈夫大丈夫! うち、今誰もいないんだよね〜。自由に使って」
「え、ええ……!」

 人様の家でシャワーを浴びたことなどない。かと言って、この汚れた服で上がるわけにもいかず、私はバスルームへと直行した。
 泥と雨水だらけの服を脱ぎ、今日初めて入った家のシャワーを浴びる。まとわりついていた髪や布がなくなって、温かい水に心が癒された。

 また人に迷惑をかけている。
 私、なにしてるんだろう。

 用意されていた真木さんの物らしき服と、新品の下着を借りた。よく誰かが泊まりに来るから、お泊まりセットとして置いてあるらしい。
 リビングへ通され、オシャレなティーカップに抹茶ミルクが出された。

「さ、飲んで。あったまるよ」

 ほんのり甘い香りがする。緑に揺れる水面を見て、宮凪くんとの仮デートを思い出す。ほどよい甘さの後に、ちょっぴりほろ苦さが残った。くせになる味。
 まるで、宮凪くんそのものだ。

「どう、少しは落ち着いた?」

 真木さんの優しい声で、さらに涙腺は緩くなる。ぽろぽろと目から雨をこぼしながら、静かにティーカップを口にした。
 この抹茶ミルクは、とても甘くて心に沁みる。

「私は……、嫌われているんでしょうか。友達になれたと思っていたけど、自惚れだったのかな。今は……、自信がありません」

 ぽちゃんと、涙が抹茶色の海に落ちた。表面が少しくぼんで、まわりと同化する。
 うーんと考えるように、真木さんが唇を結んで腕組みをした。