七月も中旬が過ぎて、アスファルトの照り返しが強くなった。滑り台やブランコも、昼間は沸騰したように熱いからか、夕方でもあまり親子の姿は見られない。
 あれ以来、放課後は毎日公園へ立ち寄っているけど、宮凪くんの姿はない。曲作りを始めて一週間と少し。ここへは来ているはずだけど、私と会う前に帰っているらしい。


『前から聞きたかったんだけど、蛍も出たりする? 合唱コンクール。出場校の中に、聖女の名前あったから』


 このメッセージを見たときは、心臓が止まるかと思った。まさか、宮凪くんの口から合唱コンクールの話題が出ると思わなかったから。
 それに、天王高校も参加するなんて、知らなかった。私が、しっかり確認していなかっただけなのだけど。


『たぶん、出ないかな』


 私は嘘をついた。
 大勢の前で歌う自信がないのと、当日、突然の腹痛で欠席するかもしれない。そのつもりだったから、そう書くしかなかったの。


『つまんねぇー。会えるかと思ったのに』


 海賊船には『宮凪くんは出るの?』と五日前の質問が残されたまま、時が止まっている。
 どうしちゃったんだろう。まだ曲も作り途中なのに。なにか、気に障ることでもしちゃったかな。

 頭を膝に埋めると、つんつんと腕を突かれた。ハッとして顔を上げると、小学三、四年くらいの子が立っている。

「お姉さん、そこどいて下さい」

 後ろから、友達らしき二人ものぞき込む。
 頬を拭いながら、素早く海賊船から降りた。遠くで五時を知らせる音楽が鳴っている。あの時より、随分と日が長くなった。

「なんで泣いてるの? お腹痛いんですか?」

 キリッとした眉の女の子が、少し見上げて言う。
 違うよと答えるより早く、隣の男の子がニヤリとした。

「いいや、これはおそらく失恋だな」
「あんたサイテー。デリカシーなさすぎ」
「うっせぇ! お前こそ、なんも知らねーくせに恋を語るな!」
「はいでた、きもー。それこっちのセリフ」

 繰り広げられる掛け合いに、思わず笑みがこぼれる。
 楽しそうでいいなぁ。私が小学生の時は、こんなふうに言いたいことをあとぐされなく言える友達なんていなかった。
 いつも自信がなくてはっきり話せないから、自然と避けられていって。それは今でも、あまり変わらないけど。

「恥ずかしいからやめよ。笑われちゃった」

 一言も話さなかった子が、頬を染めながら二人の背に隠れている。その仕草が自分と重なって、親近感が湧いた。