さっきまで無表情だった彼が、黙って抱き上げた拍子に笑みをこぼした。とても優しくて温かい。

「こいつ、そこに捨てられてたんだ。俺ん家は姉貴がアレルギーだから無理なんだけど。君、飼ってあげられない?」

 ぽかんとした顔を取り直して、素早く首を振る。うちは犬がいるから引き取れない。
 もらい手がいないと分かると、スマホで写真を撮って何かしている。どうやらSNSで飼い主を探す投稿をしたらしい。その行動力に、思わず拍手を送りたくなった。

「あっ、もう決まりそう」

 五分も経たないうちに、引き取り希望が書き込まれたようで、私はホッと胸を撫で下ろす。
 この人すごいなぁ。こんな短時間で子猫を助けちゃうなんて。私一人だったら、何も出来なかった。

「飼ってくれる人もうすぐ来るって。君も立ち会う?」

 断りかけて、唇が止まる。薄情だと思われるかもしれない。そんな一瞬の躊躇が、本心とは逆の言葉を生み出す。

「……はい」

 引き取り者が来るまで、お互い無言で待っていた。何か話さなければいけないわけじゃないけど、つまらない奴だと思われただろう。
 美容院の時と同じ。会話が盛り上がらないのは私が口下手だからで、他の人と楽しそうにしているのを見ると申し訳ない気持ちになる。

 子猫が無事にもらわれるのを見届けて安心した。震える体をタオルで包まれて、新しい飼い主の腕に守られるようにして帰る姿を、どこか自分と重ねていたのかもしれない。

 お礼を言わなきゃ。この人のおかげで、小さな命が救われたのだから。
 一度帰りかけた足を戻して、彼の前に立つ。通学鞄へ向けている視線がこっちを向いたら、声を出すの。

「その制服って、聖女(せいじょ)だろ?」

 顔が上がると同時に放たれた言葉。準備していた台詞は飲み込まれて、また声が出なくなる。どうしよう。ただ学校を聞かれただけなのに、不安の波が押し寄せる。