一瞬の沈黙が流れて、頭の中で再生した声をもう一度聞き直す。

「え、ええっ……⁉︎ そ、そんな、恐れ多いと言うか……私の言葉は拙すぎて、自信がないと言うか、恥ずかしいと言うか」

 焦りすぎて両手が前に出る。首と一緒に振りながら、できないと答えるように。

「なんで? 俺、好きだけど。蛍の詩」
「ほ、本来なら、人様に見せられるものではないので」

 心の中に湧き出た思いを、ただ吐き出しているだけ。美しくもなければ、芸術のカケラもない。

「そっか。だよな。いきなり変なこと言ってごめん」

 ハハッと笑う宮凪くんが、少し寂しそうに見えた。
 せっかく、夢を打ち明けてくれたのに。
 こんな頼りない私に、声をかけてくれたのに。
 ギュッと制服のスカートを握りしめて、小さく息を吸う。


「……だけ」

 もう一度、呼吸を整えて、今度はもっと聞こえるように。


「宮凪くん、だけなら……いいよ」

 普段の私なら、何を言われても拒んでいた。はずだけど、このままで終わりたくなかった。心の中でうごめくモヤモヤした何かが、取れない気がしたから。

「蛍にしか聴かせない。約束する」

 長い小指が差し出されて、ドキッとする。戸惑いながらも、私はそっと小指を絡めた。
 指切りなんて、ずっと小さな頃にしか記憶にない。ワクワクして遊んだあの頃の気持ちを思い出して、今はドキドキしている。
 こうして、私たちは二人だけの秘密を作った。

 学校が終わってからの約一時間ほど、海賊船へ潜り込んで、ひたすらに音を鳴らす。宮凪くんが鼻歌を口ずさむ隣で、私はルーズリーフの切れ端に文字を並べる。
 一人でいるときは、言葉が噴水のように湧き出てくるけど、今はそうもいかない。宮凪くんがいるだけで、集中できない。

「どんな感じ?」

 ふいに手元を覗き込まれて、慌てて字を隠す。

「あっ、ま、まだ見ちゃダメ。全然、浮かんでない」

 頬から耳たぶまで、一気にのぼせ上がる。りんごよりも赤いんじゃないかと思うほど、指先まで染まっていた。

「いつも通りでいいよ。いい歌詞とか考え込まなくて。蛍の思ったこと、テキトーになんでも書いて」

 それだけ言うと、宮凪くんはまたスマホからメロディを流し始める。何度も音を口づさみながら、何十と項目を増やしていく。
 その横顔をチラリと盗み見ながら、舞い降りてきた一文を綴った。