いつもは通らない道を進んで、小さな橋の上を歩く。繋がれた手が、静かに離れた。名残惜しそうにする指先は、ドキドキしたままの胸の前へ戻る。

「急に、ごめん」
「ううん」

「大丈夫?」と言いかけた口を閉じた。踏み込んではいけない気がして、聞けない。
 なにか話さないと。それだけが、頭の中をぐるぐると回っている。

「……あの歌って、有名なんだね。私、全然知らなくて」
「そんなに。知ってる人の方が少ないと思うよ」
「そうなの? 宮凪くんも歌ってたから、てっきり……」
「え、俺?」

 不思議そうに見られて、思わず体が固まる。心なしか、歩幅も小さくなった。
 変なことを言ったかもしれない。顔から、一気に血の気が引いていく。
 気持ち悪いと思われたのかな? なにげなく口づさんだ歌を覚えていたなんて、ホラーだよね。

「公園のときの! たまたま、メロディ覚えてて。印象に、残ってたというか」

 なんの弁解にもなっていない。場所まで付け加えて、気味悪さをプラスしただけだ。
 いつものことながら、自分のコミュニケーション能力の低さに涙が出る。
 思い出したのか「ああ」とつぶやいて、宮凪くんがハハッと笑う。

「いい曲だろ?」

 素早く二回うなずいて、少し頬がゆるむ。
 よかった。いつも通りの宮凪くんだ。

「歌詞はよく分からなかったけど、曲調が素敵だった。心に染みるっていうか。声もキレイで、びっくりしちゃった」
「だよな! 静けさの中に強さがあって、すげぇ響くんだよ。あれ、親友のために作られた曲なんだけど、ガチで尊敬してて! 俺もいつか、あんな曲作ってみたいって」

 となりを歩きながら、うんうんと話を聞く。
 宮凪くんがこんなに熱くなっているところ、初めて見たかもしれない。本当に歌が好きなんだな。

「……なんか、ごめん。ちょっと一人で喋りすぎた」

 橋を渡り終える頃、やってしまったという顔をして、宮凪くんが口をおおった。恥ずかしそうに顔を隠しながら、そっぽを向く。

 そんなことはない。逆に新たな一面を知れて嬉しいと話したけど、上手く伝わらない。遠回しなニュアンスがよくなかったのかな。


「ゴホッ、ゴホッ──」